初恋シンドローム
結婚の約束はした。
……だけど、それだけ。
そんな約束を交わすということは、そして再会したときの大和くんの反応からして、わたしたちはかなり親しかったはずなのに。
初恋だったはずなのに。
よっぽど印象的な出来事だったから覚えているに過ぎないのだろうか。
いつの間にか、淡い幻想と化していたのかもしれない。
その過去の追憶にふけるたび、会いたい気持ちばかりが先走って、あの頃のわたしの想いを顧みることがおろそかになっていた。
気持ちごと蘇ってこないのはそのせい?
その部分だけ褪せて薄まってしまった……?
「……あの頃」
ふと悠真が口を開き、我に返った。
ぱちん、と泡が弾けるように思考が割れて霧散する。
「事故があったの、覚えてる?」
どこか躊躇いがちな口調だったけれど、その声には芯が通っていた。
「事故……」
そう繰り返すと、耳の奥で花火の音が響いた。
つん、と消毒液のようなにおいが鼻についた。
「……あ、夏祭りの日?」
ぼんやりとお祭りの光景が頭の中に浮かんだ。音はなくて、ただ見たままの景色。
濃紺の夜空と提灯の明かり。
神社の鳥居、色とりどりの屋台、行き交う人の群れ────。
その記憶は水に浸したみたいに揺らいで、波立って、はっきりとしない。
夜なのに暑くて、いや、熱くて熱くてたまらなかった。
あたり一面、オレンジ色に染まっていて、倒れていたわたしは息ができなかった。
「そういえば……わたし、病院に運ばれたんだ」
すぐに意識を失ったからあまり覚えていないけれど、搬送された病院で目覚めたあと、両親から事情を聞かされた。
幼いわたしは完璧に理解することができなかったけれど、火の不始末で起きた火事に巻き込まれた、というような話だったと思う。
全身に火傷を負ったものの、わたしは九死に一生を得た。
両親にとってはよほどショッキングな出来事だったらしく、その事故についてはいまでもあまり語りたがらない。わたしも積極的に聞きたいとは思わなかった。
(火傷……)
気づかないうちに脇腹に触れていた。
ほとんどの火傷跡は綺麗に消えたけれど、この脇腹のそれだけは未だに残ったままだ。
わたしにとってはあるのが当たり前で、気に留めもしていなかったものの、いまになって意識された。
普段は見えない箇所だから、気にするほどでもないけれど。
「!」
はっと唐突に病院での光景が蘇る。
ひらめきが降ってくるような感覚に近かった。
「思い出した」