初恋シンドローム
思わず呟く。
色も音もない、砂を撒いたように不鮮明な記憶だったけれど、確かに思い出したのだ。
「入院してるとき、大和くんがお見舞いに来てくれてた」
わたしは包帯だらけの姿だったけれど、彼は心配こそすれ変わらない笑顔を向けてくれた。
ほぼ毎日、そうして付き添ってくれていた。
結局、そのあと不可抗力的に離れ離れになったものの、心の中には絶えず彼の存在があった。
「……そう」
悠真は一見興味なさげに、でも実際には何らかの感情を押し込めているような声で言って頷く。
もしかして、大和くんとの思い出はほとんどないのではなく、わたしが忘れてしまっているだけなのだろうか?
悠真は思い出すきっかけをくれた?
何であれ、いまのは彼のお陰で思い出せた。
ただ、どうしてわたしは火事に巻き込まれたのだろう。
どうして倒れていたのかまるで分からない。
(あれはどこだったんだろう……?)
境内へと続く階段の脇だったか、木々が茂っていてあまり人目につかないところだったと思う。
倒れて意識を失う寸前の光景が、頭の中を掠めた。
また水中のように揺らいではいたものの、わたしの目が捉えたものが何かは分かった。
血の染み込んだ浴衣と、投げ出された下駄。
「…………」
どくん、と心臓を鷲掴みにされたような錯覚を覚える。
思わず呼吸が止まり、指先が強張った。
(わたしのほかに、もうひとり倒れてた……?)
思い至った可能性に動揺してしまうと、それを知ってか知らずか、悠真が足を止めた。
身体ごとこちらに向き直る。
「あのとき、おまえと────」
「風ちゃん」
不意に声をかけられ、ふたりしてそちらを向いた。
そこに立っていた大和くんは、目が合うといっそう笑みを深め、こちらに歩み寄ってくる。
いつの間にか学校のそばまで来ていたようだ。
まったくと言っていいほど周りが見えていなかった。
「おはよう」
「あ、お、おはよう」
「ふたりで登校? 妬けちゃうなぁ」
にこやかだけれど、言葉通り嫉妬しているのか苛立っているのか、悠真の方を見ようともしない露骨ぶりだ。
だけどいまは悠真を、というか紡がれかけた言葉を、無視して流してはいけないような気がする。
「ねぇ、悠真……」
わたしは先ほど彼がそうしたように、身体ごと向けて切り出した。