初恋シンドローム

第4話


「さっき────」

「そうそう、なに話してたの?」

 わたしより先に大和くんが首を傾げた。

 結果的に聞きたいことは同じだったため、そのまま悠真の反応を窺う。
 けれど、彼は開きかけていた口を閉じてしまった。

「……何でもない」

 どこか硬い表情で首を左右に振る。

「え、でも」

「いいから忘れて。……あんなこと言うつもりじゃなかった」

 ふい、と顔ごと背けた彼の瞳を見た。
 ゆらゆらと揺れていて、自身でも戸惑っているのが分かる。

 大和くんがいるから話しづらい、というわけでもなさそうだった。
 逆に彼が来たことで我に返ったという具合だ。

 あんなこと、の中にはあの火事についてのことも含まれているのだろうか。
 それとも言いかけた何かのことだけ?

 いずれにしても、何だかやっぱり様子が変だ。

 そんなことを考えていると、彼はわたしたちの方を見ないまま歩き出した。

 思わず追いかけようと一歩踏み出したとき、大和くんがこちらを覗き込むようにして微笑む。

「行こう、風ちゃん」

「あ……うん」

 頷きはしたものの、何度も悠真の背を窺ってしまった。
 気にしないで切り替えるには、鈍感さが足りなくて。

「ねぇ、今日も一緒にお昼食べよう」

「あ、じゃあ悠真も────」

 そう言ったのはほとんど思いつきで、深く考えていたわけではなかった。
 ぴた、と足を止めた彼が半分だけ振り向く。

「……いい。そういうの、もう誘わないで」

 昨日の帰りのことも含めて指しているのだろう、とすぐに思い至った。

「せっかく再会できたんだから、俺に構わずふたりで仲良くやればいいじゃん」

 いつも以上に色のない顔で、突き放すように言う。

 言葉を見つけられず、反応すら返せないうちに、再び前を向いた悠真が遠ざかっていく。
 先ほどより歩が速くて、引き止める余地もなかった。

(どうしてなんだろう……)

 あれこれと色々な“どうして”が、胸の内に湧いて滞空(たいくう)する。

 どうして悠真が気にかかるのだろう?
 様子がおかしいのも、何を言いかけたのかも、引っかかっていた。

 そして、どうして大和くんが真っ先に“一番”にならないのだろう?
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