初恋シンドローム

 わたしの中で彼の存在は確かに大きいけれど、一番とは言えなかった。

 彼の想いを悟っても、何より優先することができなくて、そう気がついてしまった。

 悠真の言う通り、もう何も遠慮したり躊躇(ちゅうちょ)したりする必要なんてないのに。

「……何でそんな表情(かお)してるの?」

 普段より静かなトーンで、大和くんに尋ねられる。

「え……」

「何だか不安そうに見える。それとも、越智に突き放されたことがショック?」

 自分が実際にどんな顔をしているのか分からないけれど、完全に無意識だった。

 戸惑いながら思わず頬に手を当てると、大和くんも表情を(かげ)らせる。
 図らずも鏡になって、わたしの浮かべていた表情を自覚した。

「……好きなの?」

「えっ? そ、そういうわけじゃないよ!」

 悠真のことを、だろうと文脈的に察すると、慌てて否定する。

 付き合いが長いからお互いに気心が知れていて、言わば親友に近い関係だと思っている。

 そもそもわたしが好きなのは、あの頃からずっと大和くんただひとりだ。

「そっか、そうだよね。よかった」

 安堵したように柔らかく笑う彼は、余裕を取り戻したようだった。

(あ……)

 不意に気づく。
 大和くんもまた、わたしの気持ちを期待して、当たり前に信じているんだ。



 ────ふたりで歩き出してからは、彼は昨日案内をしたときと同じように純真な笑みをたたえていた。

 幼少期のあのひと幕と変わらない、嬉しそうな笑顔。
 悠真やほかの誰かに対して見せる牽制(けんせい)のような気配はない。

 それが勘違いじゃないのなら、本当にわたしのことしか見ていない。

 意図的にそうしているのが分かるほど、わたしにしか心を開いていなくて、強い親愛の情を抱いてくれているみたいだ。

(そんなに、わたしのこと……)

 じっと見つめていると、ふと大和くんがこちらを向いた。
 愛おしげに双眸(そうぼう)が和らぎ、どきりとする。

 照れくささに耐えられなくてつい視線を逸らすと、くす、と優しい笑いが降ってきた。
 何だか耳が熱くなってくる。

 それから一拍置いて、大和くんが言った。

「……ごめんね」
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