初恋シンドローム

「えっと……。うん、実は」

 そう頷いたところまではよかった。
 だけど、またすぐに声が詰まってしまった。

 大和くんの表情が衝撃と落胆に染まったのを見て、それ以上何も言えなくなった。

「……ごめんね」

 絞り出すようにそれだけ小さく告げ、俯いてしまう。
 落とした視線の先で揺れる影をただ見つめた。

 やっぱりわたしは、大和くんに見合うほどの気持ちを持つことができていないのではないか。

 こんなわたしが彼に想われる資格があるのか。

 いっそう自信がなくなって、あまりに申し訳なくて、顔を上げられなくなる。

「そっか……」

 大和くんの悲しそうな声が落ちて転がる。
 ぎゅう、と締めつけられた胸が痛んで苦しくなった。

「気にしないで。大丈夫だよ、覚えてなくても」

「ごめん……」

「ううん、思い出なんてこれから作っていけばいいんだよ。こうしてまた会えたんだから」

 ね、と柔らかく微笑んで顔を傾ける大和くん。
 だから記憶に(すが)る必要はない、ということだろう。

 そうは言ってもショックや寂しさを隠しきれていないのが見て取れた。
 だけど、わたしはこくりと頷く。

「……ありがとう」

 大和くんの優しさと気遣いに甘えさせてもらうことにする。

 過去に固執(こしつ)する必要はもうないのだから、いまを大事にすればいい。
 いま目の前にある、大和くんとの時間を。
 これ以上、悲しませたりしないように。

 それに、悠真と話してそうだったみたいに、接していくうちに思い出すことだってあるかもしれない。

「ねぇ、ちょっとだけ寄り道しない? 最初の思い出作り」

 思い立ったように大和くんが言う。
 その瞬間、ふっと心が軽くなって余計な力が抜けた。自然と頬が(ほころ)んでいく。

「うん、行きたい」

「どこがいい? 何でも言って、風ちゃんの行きたいところ」

 そう言われると悩ましい。
 考えるように思考を巡らせたとき、図らずもあることを思い出した。

(あ、そういえば────)
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