初恋シンドローム
     ◇



 バスに乗って移動し、たどり着いた先は雑貨屋さんだった。

 アンティークな雰囲気がかわいらしくて、まるで童話の世界に迷い込んだかのような空間だ。
 以前に一度訪れて以来、お気に入りのお店だった。

「かわいいところだね、風ちゃんらしい」

 目元を和らげ、大和くんがぽつりと呟く。

 それを受けて、はっとする。いまさら慌てた。
 行き先を決めたのはわたしで、完全に自分のことしか考えていなかったことに気づく。

「あ、ごめんね。たぶん、大和くんには退屈だと思うけど……」

「そんなことないよ? 風ちゃんの好きなものは俺も好きだし、一緒にいて退屈なんて感じるはずないでしょ」

 心の中で陽だまりが広がるような、不思議な感覚がした。

 大和くんはわたしの望むところを最初からぜんぶ分かっているみたいだ。

 無意識に求める言葉、態度、そのすべてを、わたし自身が自覚するより先にくれる。

 しかも、その場しのぎの甘美(かんび)なセリフでもない。
 紛れもなく彼の本心だと分かるからこそ、一緒にいてとても心地よかった。

「なにか欲しいものでもあるの?」

「うん、お気に入りのマグカップが割れちゃって……。新しいのを探してるんだ」

 苦笑混じりにそう答えながら、商品の並んだ棚を見て回る。

「あ、これとか風ちゃんっぽい」

「わ……かわいい」

 白地に淡いピンクで花の装飾がされ、ハンドル部分がハートの形になっていた。

 これも、これも、なんて次から次へと彼はカップを指していき、思わず笑ってしまう。

 ふたりでそんなふうに選んでいる間、彼は本当にわたしより楽しそうに見えた。

 普段は見られない無邪気な笑顔が、かわいらしくさえ感じてちょっと頬が熱くなる。
 あの一場面しかほとんど覚えていないくせに、あの頃のままだ、なんて思うほど。



 ────結局、大和くんが最初に選んでくれたマグカップに決めて会計を済ませた。
 レジから戻ってくると、店内の一角に立っている彼の元へ歩み寄る。

「大和くん?」

 どうやらアクセサリーを眺めているようだ。
 隣に立ったとき、瞳の先に何があるのか分かった。

(指輪……)

 かわいらしいものから大人っぽいものまで、華奢(きゃしゃ)なデザインながらどれも輝いて見えた。
 視界の中できらきらと光が弾ける。

「ちゃんとしたものはまだ買えないけど」

 ゆったりと紡いだ大和くんを見上げる。
 一拍置いてからこちらを向いた彼と目が合った。

「それでも、いまここで風花に贈りたいって言ったら……受け取ってくれる?」
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