初恋シンドローム

第5話


 鏡の前で何度も自分の姿を確かめた。

 ハーフアップにまとめた髪の結い目につけたリボンが目に入るたび、心が騒ぐような気がした。

 昨日、大和くんと過ごした時間が自然と蘇ってくる。
 頬を撫でる風のようによぎってわたしを包み込む。

(大和くん、どう思うかな)

 彼の想いが添えられたリボンをつけているわたしを見たら。
 気恥ずかしくなって、外そうか何度も迷ってしまったけれど、結局そのままつけて行くことにした。

「行ってきまーす」

 庭を抜けて門の向こうを窺ったものの、さすがに悠真の姿はなかった。
 そのことに少なからず落胆している自分がいて、今度は彼のことが急激に気にかかってくる。

 わたしが大和くんといることで、図らずも悠真のことをないがしろにしているように思えた。

 一緒にいたい、と言ってくれたのに、その言葉は少なくとも裏切ってしまっている。

 喧嘩をしたいわけでも疎遠(そえん)になりたいわけでもないのに、どうしてか彼とは距離が遠くなってしまったように感じていた。

 大和くんがいたって、わたしにとって悠真が大事な存在であることには変わりないのに。

(……声、かけてみよう)

 突き放されはしたけれど、嫌われたわけではないと信じて、学校へ着いたらいままで通りに“おはよう”を言いにいこう。

 悠真との関係までもを、大和くんに遠慮する必要はないはずだ。



     ◇



 昇降口で靴を履き替えていると、ふっと隣が(かげ)った。
 そちらを向いたとき「あ」と無意識のうちに声がこぼれる。

 流れるような動作で、同じように靴を履き替える悠真の姿を認めたからだ。

「おは────」

「それ、なに?」

 少し緊張しながら準備していた“おはよう”を言いかけたものの、彼の言葉が上から被せられた。

 その目線がわたしの頭の方に向いていると気づき、咄嗟にリボンに触れる。

「あ、これ? えっと……大和くんにもらったの」

 誤魔化す理由もなくて、そう事実を口にした。
 悠真がわずかに眉を寄せ、表情を曇らせる。

「三枝に? ……何で?」

「そ、の……指輪の代わりに」

 そのことまで正直に打ち明けるかどうか迷ったけれど、彼に隠したって仕方がないだろうと判断した。

 悠真は幼少期からのわたしたちの関係を知っていたみたいだし、こと細かに経緯(いきさつ)を話さなくても、指輪もといリボンの持つ意味に察しがつくはずだ。
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