初恋シンドローム
案の定、悠真はすぐにはっとした顔になり、また眉をひそめるとわたしをまじまじと眺めた。
「……分かってるの?」
ただ尋ねているというよりは問い詰めるような鋭い気配があって、つい気圧されてしまう。
「え」
「それ、あいつなりの意思表示だよ」
どきりとした。
熱の込もった大和くんの眼差しを思い出す。
深く考えないで、なんて言っていたけれど、確かにこれだって結局は指輪とさして変わらないかもしれない。
このリボンそのものが大和くんの気持ちだと言うのなら、つけている限り、これは“器”を表しているように思えた。
つまり、その想いに応える気があるのだと間接的に示す、わたしの心の余地を。
「……分かってるよ」
「受け入れたってこと?」
間髪入れずに問われ、俯きかけた顔を上げた。
想いを受け入れたわけじゃない。
だけど、拒む意思があるわけでもない。
どっちつかずで中途半端な気持ちは曖昧で、答えられなかった。
「────風花」
不意に呼ばれたかと思うと、正面玄関の扉の方に大和くんが立っていた。
歩んできた彼はわたしのすぐそばで立ち止まる。
「思った通り、かわいい」
結び目につけたリボンを認めるなり、とろけるような微笑みで言われ、熱を帯びた心まで溶かされそうになる。
彼はそういう甘い言葉を惜しみなく口にするけれど、そのどれもに特別な響きを感じられた。
それはきっと、大和くんの想いの深さを知ってしまったからだ。
「ね、どう? 俺が選んであげたの」
珍しく悠真に振った彼を意外に思ったけれど、その表情を見れば何となく腑に落ちた。
嬉しそうでも満足そうでもあって、優越感というものに浸っているのだろうと想像がつく。
どうして悠真に対抗心を覚えているのか不思議に感じたものの、以前のやりとりを思い出してまた納得がいった気がした。
『越智が……羨ましくて』
たぶん、取り戻そうとしているのだ。
本来、わたしたちがふたりで紡ぐはずだった時間を。
「きみもかわいいと思わない?」
「……別に。ていうか、全然似合ってない」
あからさまに機嫌を損ねた様子の悠真はそう答えると、わたしに手を伸ばした。