初恋シンドローム

 案の定、悠真はすぐにはっとした顔になり、また眉をひそめるとわたしをまじまじと眺めた。

「……分かってるの?」

 ただ尋ねているというよりは問い詰めるような鋭い気配があって、つい気圧されてしまう。

「え」

「それ、あいつなりの意思表示だよ」

 どきりとした。
 熱の込もった大和くんの眼差しを思い出す。

 深く考えないで、なんて言っていたけれど、確かにこれだって結局は指輪とさして変わらないかもしれない。

 このリボンそのものが大和くんの気持ちだと言うのなら、つけている限り、これは“(うつわ)”を表しているように思えた。

 つまり、その想いに応える気があるのだと間接的に示す、わたしの心の余地を。

「……分かってるよ」

「受け入れたってこと?」

 間髪(かんはつ)入れずに問われ、俯きかけた顔を上げた。

 想いを受け入れたわけじゃない。
 だけど、拒む意思があるわけでもない。

 どっちつかずで中途半端な気持ちは曖昧(あいまい)で、答えられなかった。

「────風花」

 不意に呼ばれたかと思うと、正面玄関の扉の方に大和くんが立っていた。
 歩んできた彼はわたしのすぐそばで立ち止まる。

「思った通り、かわいい」

 結び目につけたリボンを認めるなり、とろけるような微笑みで言われ、熱を帯びた心まで溶かされそうになる。

 彼はそういう甘い言葉を惜しみなく口にするけれど、そのどれもに特別な響きを感じられた。

 それはきっと、大和くんの想いの深さを知ってしまったからだ。

「ね、どう? 俺が選んであげたの」

 珍しく悠真に振った彼を意外に思ったけれど、その表情を見れば何となく腑に落ちた。
 嬉しそうでも満足そうでもあって、優越感というものに浸っているのだろうと想像がつく。

 どうして悠真に対抗心を覚えているのか不思議に感じたものの、以前のやりとりを思い出してまた納得がいった気がした。

『越智が……羨ましくて』

 たぶん、取り戻そうとしているのだ。
 本来、わたしたちがふたりで紡ぐはずだった時間を。

「きみもかわいいと思わない?」

「……別に。ていうか、全然似合ってない」

 あからさまに機嫌を損ねた様子の悠真はそう答えると、わたしに手を伸ばした。
< 25 / 82 >

この作品をシェア

pagetop