初恋シンドローム

「や、大和くん……?」

 どういうことだろう。何の話だろう。
 芽生えた戸惑いはみるみる膨張(ぼうちょう)し、胸の内を圧迫してくる。

「ねぇ、風ちゃん。越智ってやっぱりきみのことが好きなんじゃないのかな」

「えっ!?」

 わたしの内心に広がる困惑をまるごと無視する形で、彼はにこやかに言ってのけた。

「小さい頃からずっとそうなんだとしたら、すごい執念だと思わない?」

 ────それでも、わたしの隣には大和くんがいた。
 だから悠真は彼がいなくなるのを待って、近づく機会を狙っていた、とでも言いたいのだろうか。
 実際にそうした、と?

 思わずむっとしてしまう。

 悠真はそんな狡猾(こうかつ)な人物じゃないし、何より不確かな憶測をもとに(けな)すなんてひどい。

「それは、大和くんも同じなんじゃ……」

 反論が口をついた。
 自分で言うのも妙な感じがするけれど、それはその通りのはずだ。

 彼だってあの約束を交わした日から、いや、それよりも前から、いまもずっと変わらない気持ちを抱き続けてくれている。

「やだな、ちがうよ」

 大和くんは普段の余裕を崩すことなく、さも当たり前のように笑った。
 意外な反応だ。

「俺は執着してるわけじゃなくて、あくまで一途なだけ。純愛だよ?」

 顔を傾け、ゆったりと微笑む表情は見惚れるほど甘い。
 それでもいまはどこか隙のなさが感じられる。

「ところでさ、考えてくれた?」

「え……。なにを?」

 思わず瞬きを繰り返すと、そのうちに彼から苦みが抜けていくのが見て取れた。

 穏やかな双眸(そうぼう)に込められたまっすぐな恋心と愛情を目の当たりにして、(おの)ずと以前の言葉が思い出される。

『あの約束、俺はいまでも本気だよ』

 どくん、と高鳴った鼓動がまた加速していく。

『さっきも言ったけど、この再会も運命だって本当に信じてる。だから、真剣に考えてみてくれないかな』

 そう、確かに言われていた。
 彼の存在がいつだって意識の中心にあったのに、その選択だけは未だ先延ばしにしたままだ。

「風花」

 視線を上げると、真剣な眼差しに捕まった。逃げることも逸らすことも許されないと思えるほど。
 瞳の奥を覗き込むように捉えて離さない。

「俺と付き合って。結婚を前提に」

 ────その言葉はひとひらの花びらのように、ふわりと舞って心に降り落ちた。

 そこから色づいていって、世界が眩いほどの彩りで満ちていく。

 肌では何となく感じ取っていたことだけれど、想いをはっきりと告げられたのは、再会してからは初めてだ。
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