初恋シンドローム
     ◇



「……おはよ」

「あ、おはよう。悠真」

 昇降口で顔を合わせた彼と挨拶を交わし、ふたりで階段を上っていく。
 何だかまともに話すのは久しぶりのように感じた。

「ねぇ、聞いていい?」

「ん?」

「……三枝には返事したの?」

 どき、と図らずも心臓が跳ねる。

 デートだったりキスを避けたことだったり、より鮮烈(せんれつ)な出来事に押し流されて、それどころじゃなくなっていた。

「えっと……まだ、かな」

「そっか」

 悠真の返答は短く、その先に言葉を続けるか迷っているような気配があった。
 わたしは視線を落としたまま口を開く。

「どう思う?」

「……どう、って」

「わたし、どうしたらいいかな」

 つい(すが)るような眼差しを向けた。彼はどう受け止めただろう。
 しばらく推し(はか)るようにこちらを見つめ返していた悠真が、ややあって口を開く。

「そんなこと、何で俺に聞くの?」

 まったくもってその通りだった。
 慌てて前を向き、力なく笑う。

「そうだよね。……ごめん」

 わたしは悠真になにを求めていたのだろう。
 なんて言って欲しかったのだろう。

 自分で選ぶことから逃げようとした浅はかさを見透かされ、突きつけられた気がして、目を合わせられなくなった。

「!」

 廊下を歩き出して教室の方を見やったとき、ふと気がつく。
 扉の前に立っている大和くんの姿に。

 ぱち、と目が合った瞬間、かぁ、と頬が一気に熱を帯び始めた。

 体温が上がった自覚もあったし、きっと傍目(はため)にも分かるくらい上気(じょうき)していたと思う。

 案の定、(いぶか)しむように悠真が眉を寄せた。

「……なにしたの?」

 悠真はわたしではなく大和くんに問いかけた。
 歩み寄ってきた彼が口を開くより先に。

 大和くんはそんな悠真を一瞥(いちべつ)したものの、答えることなくわたしに向き直る。

「ごめんね、風ちゃん」

 改めて謝られた。
 何に対する“ごめん”なのかは、わざわざ尋ねなくても分かる。

「謝らなきゃいけないようなことしたの?」

 声を低めた悠真が臆せず追及すると、大和くんは「……はぁ」とうんざりしたようにため息をついた。

「黙っててくれる? きみには関係ないから」

「そんなわけにいかない。どう見たって困ってるし」
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