初恋シンドローム

 ふたつの飴の間で視線を行き来させ、眉を寄せたまま大和くんを見上げた。
 やっぱりと言うべきか、優しい笑顔しか返ってこない。

(好き()()()方……?)

 妙な言い方だった。
 どういうことなんだろう?

 ひとまずそれをさしおいても、先ほどの質問だけじゃなくて、この流れにまで既視感(きしかん)があった。

 今度はわたしがかまをかけられているとでも言うのだろうか?
 いったいどうして?

 彼を疑っていたことに気づかれた?
 まさかその仕返し?

(確かにすごく微妙な、というか嫌な気持ちにはなるかも……)

 わたしは唇を噛み締めながら、また机の上の飴に視線を戻した。
 もう一度ふたつのそれを見比べる。

「じゃあ、こっち……もらうね。ありがとう」

 おずおずとピーチ味の方を手に取った。
 大和くんは「なるほど」とでも言いたげに頷き、またにっこりと笑う。

「うん、どうぞ」

 特に言及されることもなく、あっさりとした反応だった。
 それはそれでどう受け取るべきか分からない。

(どういうつもりなんだろう?)

 袋を開けて飴玉を口に放り込む。
 ますます彼の本心が見えなくなったような気がして、少しだけ息が詰まった。



     ◇



 午後の授業が始まってから10分くらいが経った。
 何気なく隣を一瞥(いちべつ)したとき、大和くんの様子がおかしいことに気がつく。

(体調……悪いのかな?)

 口元を手で覆ったまま俯いていた。
 不規則な呼吸を繰り返す彼の顔は、色をなくしているように見える。

「大和くん、大丈夫……?」

 小声でそう尋ねると、彼は首を横に振った。
 声を出す余裕もないみたいだ。わたしは慌てて手を挙げた。

「せ、先生────」



 授業中の静かな廊下を大和くんと歩いていく。
 隣の席だから、という理由でわたしが保健室まで付き添うことなった。

(大丈夫かな……)

 その間も彼の口数は少なくて、心配な気持ちが膨らんで止まない。

「失礼します」

 階段を下りてたどり着いた保健室の扉をスライドさせるけれど、中に先生の姿はなかった。
 ほかに人もいなくて、静まり返っている。

「大和くんはベッドで休んでて。わたし、先生呼んでくる」

「…………」

 カーテンを閉めておこうと手をかけたものの、歩んできた彼はまっすぐベッドへ向かわなかった。
 ふわ、と不意に後ろから抱き締められる。

「え……っ」
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