初恋シンドローム

第2話


(どうしてこんなことに……)

 真隣から感じる熱烈(ねつれつ)な視線から顔を背けつつ、困り果てたわたしはため息をついた。

『あ、先生。俺の席、ここがいいです』

 ────今朝のホームルームで転入生として紹介された三枝くんはあのあと、わたしや周囲の混乱に構うことなく、わたしの隣の席を悠々(ゆうゆう)と希望した。

 ちょうど1番後ろ、そしてちょうど隣が空いていて、たまたま重なった“ちょうど”のお陰で隣同士になったのだ。

 ほどなくして授業が始まったはいいものの、まだ教科書がないから、とぴったり机をくっつけていまに至る。

 三枝くんは頬杖をついたまま、嬉しそうにずっとこちらを見つめていた。
 広げたノートには一文字も書いていないし、シャーペンを握る気すらないみたい。

(本当に、どうしてこんなことに?)

 誰もが見惚れるような美形の転入生に、いきなり見初(みそ)められる自信はないのに。
 隣が眩しくてたまらない。

『やっと見つけた』

 ふと最初にこぼされたひとことを思い出し、あれ、と思う。

『ずっと会いたかったよ、風ちゃん』

 はたと顔を上げ、彼の方を向いた。

(わたしのこと、知ってる……?)



     ◇



 怒涛(どとう)ともいえる展開が相次いで、彼の言葉をまともに受け取ることができていなかったみたいだ。

 やっとの思いで迎えた休み時間、号令を終えるなり座るより先にわたしは彼を窺った。

「あの、三枝く────」

「三枝くん!」

 呼びかけた声に別のそれが重なった。
 どたどたと雪崩(なだれ)のように押し寄せた女の子たちが、あっという間に彼を囲む。

 その強烈な勢いで体当たりを食らい、たたらを踏んだ足が床を捉え損ねた。
 バランスを崩したわたしはその場に倒れ込む。

(痛った!)

 したたかに打ちつけたてのひらから、電流が流れるような痛みが伝う。

(お、恐るべし……)

 彼女たちのものすごい積極性と三枝くんのカリスマ性に圧倒されながら、その人だかりを見上げた。

「ねぇ、三枝くんって彼女いるの?」

「てか、鈴森(すずもり)さんとどういう関係? あんなふうに手握ったりとかしちゃって」

「いいなぁ、わたしも隣がよかった!」

 次から次へと質問攻めにされた彼は、だけどひとつとして答えようとしない。

「悪いけど」

 椅子を引いて立ち上がると、彼女たちの弾んだような声が止む。
 三枝くんはわたしの(かたわ)らまで歩み寄ってきた。

「俺、この子以外に興味ないから」
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