初恋シンドローム

 合点がいった。
 だからわたしに疑いを抱き始めたのだ。

 大和くんが求めていたのは、幼い頃のわたしだった。
 その幻想を逸れたいまのわたしを、それでも変わらず想い続けてくれていたわけじゃなかった。

 結婚の約束をして離れ離れになった幼なじみと、運命的な再会を果たして結ばれる────彼が焦がれていたのは、そんなシナリオだった。

「……ねぇ、それ美味しい?」

 ふと、大和くんがわたしの手にするジュースを指しながら首を傾げる。

「え……。あ、うん。美味しいよ」

 半ば状況に圧倒されてはいたけれど、その答えに嘘はなかった。
 香りまでみずみずしくて甘い。

(でも、それどころじゃ────)

「そっか。……でも変だな」

 ジュースを味わっている場合じゃない、と思ったけれど、大和くんは引っかかりでも覚えたように声色を変えた。

 というか、その反応は用意していたようなわざとらしささえ滲んでいる。

「変、って?」

 たまらず聞き返すと、彼はわたしの手からカップを取り上げた。

「昇降口でメロンの話したとき……まあ、あれは咄嗟のことだったんだけど。“美味しかった”って言ってたよね」

「……言ったよ」

「本当は覚えてないけど、優しい嘘ついて合わせてくれたのかなって思った」

 どきりとする。
 実際その通りだったけれど、見透かされていたとは思わなかった。

「でも、あとから違和感に気づいちゃって……。それがいま確信に変わった」

 どこかもったいつけるような口ぶりに思わず身構えてしまう。
 大和くんの双眸(そうぼう)がわたしを捉えた。

「風ちゃんは小さい頃からメロンアレルギーだった。こんなの飲んだら、下手したら呼吸困難で死んじゃうかも」

 言葉の意味を理解するのに数秒要した。
 ううん、しっかりと理解することなんて何秒かかっても無理だった。

「どういうこと……?」

 聞き返した声は震えてしまった。
 動揺ばかりが波のように押し寄せてきて、混乱の渦へ放り込まれる。

「それを聞きたいのはこっちなんだけどな。……俺も諦めはついたけど、違和感は無視できなくてさ」

 困ったように笑いながら手元を眺めていた大和くんは、カップをふたつともベンチの端の方に置いた。

 笑みを消すと、身体ごとわたしに向き直って鋭い眼差しを注ぐ。

「きみは誰?」
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