初恋シンドローム

第11話


 全身を困惑が突き抜けていった。
 座っているのに足元がぐらぐらと揺れているような錯覚(さっかく)を覚える。

(わたし……?)

 アレルギーなんて持っていなかったはずだ。
 少なくともいま、メロンを口にしても身体に異常は(きた)していない。

 大和くんがかまをかけている可能性も低かった。
 疑惑を直接ぶつけたにも関わらず、いまさらそんな遠回しなことをする必要はないから。

『三枝は三枝だよ。本物』

 不意に悠真の言葉が蘇ってきた。
 彼はそう断言していた。……三枝()、と。

(わたしは……?)

 本物じゃなかったのは、わたしの方だった?
 大和くんの疑いは正しかったということ?

(おかしい。そんなはずない)

 わたしは「風花」だ。
 違うというなら、いったい誰?

「……っ」

 無意識のうちに呼吸が止まって、目の前が遠く(かす)んでいく。

 わけが分からない。
 だけど、頭の片隅にいるひときわ冷静な自分が分析していた。

 大和くんからすれば、確かに違和感だらけだ。

 偶然再会を果たした初恋相手は、自分との記憶をほとんどなくしていて、さらには気持ちまでかけらほども返ってこない始末。
 約束だけが宙ぶらりんで────。

 昇降口で明かされかけたあのエピソード、もしかするとアレルギーはそのときに発覚したのかもしれない。

 昔はそれで口にできなかったはずのメロンを摂取(せっしゅ)しても何の問題もないときたら、それは別人だと疑いたくもなる。

 “確信に変わった”と言っていた通り、そう結論づけないと納得できないほど決定的だ。辻褄(つじつま)が合う。

「……ない……」

 声も、息も、両手も、全身が震えていた。

 心臓が重たい音を立てるたび、体温が奪われていくような気がする。

「分かんない……」

 半ば錯乱(さくらん)状態に陥りながら、わたしは(すが)るように大和くんの両腕を掴んだ。

「わたし、誰なの……?」

 底知れない不安が這い上がり、泣きそうになってしまう。

 これまでずっと「鈴森風花」として生きてきた。
 あの事故を生きながらえて────。

 頭の中に過去の出来事が流れ込んでくる。
 走馬灯(そうまとう)のように駆け巡り、病室で目覚めたところまで(さかのぼ)った。

 そのとき、不意に思い至る。
 事故より前のことはどうだっただろう……?
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