初恋シンドローム

 見た目や声が似ていたのはあくまで偶然だった。
 実際に双子なわけでも血縁があるわけでもない。

『ねがおが一番似てるんだよ』

『どうして知ってるの?』

『授業中に見ちゃった!』

 なんて話しながら遠ざかっていく彼女たちの後ろ姿を、どこか満たされたような気持ちで見送る。
 風花ちゃんかと思った、という言葉が純粋に嬉しかった。

 もっと彼女に近づきたい。似ていると言われたい。
 いっそのこと、彼女になりたい。

 そんなことを考えていると、またしても誰かに肩を叩かれた。

『結衣ちゃん』

 わたしの後ろ姿を見て正確にそう呼べるのは、もしかしたら彼女だけなんじゃないかと思う。
 とっておきの笑顔を向けて振り返った。

『風花ちゃん!』

『夏休み、いっしょにお祭り行かない?』

 神社で(もよお)される夏祭りのことだ、とすぐに分かった。
 毎年家族で出かけていたけれど、友だちと回るなんて初めてのことだ。
 わたしはこの上ないくらいに舞い上がっていた。

『行きたい! ねぇねぇ、おそろいの浴衣着ない?』

『わぁ、楽しそう!』

 ────そしてあっという間に迎えた当日、わたしたちはおそろいの格好で神社へと向かった。

 人気(ひとけ)のないところへは近づかないこと、何かあったらすぐに連絡すること、遅くならないようにすること……。

 お互いの親に再三(さいさん)釘を刺されたけれど、意識はもうお祭りにばかり向いていて、ほとんど聞き流していたと思う。

 同じ浴衣、同じ髪型、同じ帯に下駄と揃えたのに、髪飾りだけ合わせるのを忘れていた。
 案の定、彼女のものとは色も形も違っていて、心底がっかりしてしまう。

『……髪飾り、交換する?』

 わたしがそればかり見ていたからか、風花は躊躇(ためら)いがちにそう提案してくれた。

『ううん。それじゃおそろいにならないもん』

『交換しようよ! 今日はわたしが結衣ちゃんで、結衣ちゃんがわたしになるの』

 半ばすねていたところだったけれど、彼女の明るい笑顔に救われた。

 いま考えたら本当に幼くて些細なことだ。
 でも、あのときのわたしは本気で彼女になりたいと望んでいた。

 だから、風花のその言葉が嬉しかった。
 このお祭りの間だけでも、憧れの彼女になれるのなら────。



 ふたりで屋台を回って食べたり遊んだりと満喫(まんきつ)しているうちに、親に言いつけられた門限が迫ってきていた。

 帰りたくないなぁ、なんて考えながら、少しでも遠回りしようと境内の端の方を歩く。
 人気のないところへは近づかない、なんて言われていたことはすっかり頭から抜け落ちていた。

 ふと、彼女が静かに口を開く。

『……大和くんね、夏休みの間に引っ越しちゃうんだって』
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