初恋シンドローム
◇
うっすらと目を開けたとき、まだら模様の白い天井が見えた。
手足の先に感覚が戻り始める。
「……起きた?」
ふと横を向くと、ベッドの傍らに悠真がいた。
(そっか、わたし……)
パンドラの箱ともいえる、封印したはずの本来の記憶を取り戻して錯乱状態に陥ったのだ。
意識を失ったところを保健室まで運んでくれたみたいだった。
「大和くんは……?」
「教室戻ってもらった。先生もいまは外してる」
そっか、と頷きながら身体を起こした。
悪夢から覚めたみたいに、不思議と軽やかに感じられる。
「大丈夫?」
案じてくれる悠真の表情が、なぜかあの頃の彼と重なった。
頷いて答えると、小さく笑う。
「……あのとき、悠真がなにを謝ってたのか分かった気がする」
彼が助けてくれた、その事実は変わらないのに。
謝ることも自分を責めることも、何ひとつとしてない。
さっきだって大和くんに嘘をついて、ひとりであの夜の真相を抱えながら、ずっとわたしを守ろうとしてくれていた。
────いまになって、ひとつ気づいたことがある。
あの日、風花と仲違いした原因は、ふたりして大和くんを好きになったからだと思っていた。
だけど、実際のところはちがったのだ。
「風花」に心底憧れていて、彼女になりたいとまで思っていたわたしは、好きな人まで同じじゃなければならない、と必死で恋に恋をしていただけだった。
初恋に囚われていたのは大和くんだけじゃなくて、わたしも同じだったのだ。
「悠真……。色々とありがとう」
真っ先に伝えるべき言葉を、ようやくかけることができた。
悠真は一拍置いて俯く。
「本当はきみにもぜんぶ隠し通すつもりだった。……この真相は、何もかもを壊しかねないから」
彼の言う通りだった。
「わたし」の正しい居場所は、いったいどこなんだろう?
今さら結衣として生きられるだろうか?
このまま風花として秘密を抱え続けるべきなのだろうか?
「でも、どうするかはきみが決めればいい。正しいも間違いもないから」
悠真のあたたかい手が頭に乗せられた。
肩の荷を下ろしたように澄んだ微笑みを向けられる。
「きみが誰だって、俺の気持ちはあの頃から変わらない。これからも……結衣のことは俺が守るから」
うっすらと目を開けたとき、まだら模様の白い天井が見えた。
手足の先に感覚が戻り始める。
「……起きた?」
ふと横を向くと、ベッドの傍らに悠真がいた。
(そっか、わたし……)
パンドラの箱ともいえる、封印したはずの本来の記憶を取り戻して錯乱状態に陥ったのだ。
意識を失ったところを保健室まで運んでくれたみたいだった。
「大和くんは……?」
「教室戻ってもらった。先生もいまは外してる」
そっか、と頷きながら身体を起こした。
悪夢から覚めたみたいに、不思議と軽やかに感じられる。
「大丈夫?」
案じてくれる悠真の表情が、なぜかあの頃の彼と重なった。
頷いて答えると、小さく笑う。
「……あのとき、悠真がなにを謝ってたのか分かった気がする」
彼が助けてくれた、その事実は変わらないのに。
謝ることも自分を責めることも、何ひとつとしてない。
さっきだって大和くんに嘘をついて、ひとりであの夜の真相を抱えながら、ずっとわたしを守ろうとしてくれていた。
────いまになって、ひとつ気づいたことがある。
あの日、風花と仲違いした原因は、ふたりして大和くんを好きになったからだと思っていた。
だけど、実際のところはちがったのだ。
「風花」に心底憧れていて、彼女になりたいとまで思っていたわたしは、好きな人まで同じじゃなければならない、と必死で恋に恋をしていただけだった。
初恋に囚われていたのは大和くんだけじゃなくて、わたしも同じだったのだ。
「悠真……。色々とありがとう」
真っ先に伝えるべき言葉を、ようやくかけることができた。
悠真は一拍置いて俯く。
「本当はきみにもぜんぶ隠し通すつもりだった。……この真相は、何もかもを壊しかねないから」
彼の言う通りだった。
「わたし」の正しい居場所は、いったいどこなんだろう?
今さら結衣として生きられるだろうか?
このまま風花として秘密を抱え続けるべきなのだろうか?
「でも、どうするかはきみが決めればいい。正しいも間違いもないから」
悠真のあたたかい手が頭に乗せられた。
肩の荷を下ろしたように澄んだ微笑みを向けられる。
「きみが誰だって、俺の気持ちはあの頃から変わらない。これからも……結衣のことは俺が守るから」