初恋シンドローム
それから
     ◆



「三枝大和くんだ。みんな仲良くするように」

 あの日、転入生として現れた彼を見て、一番驚いたのはたぶん俺だろう。

 もしや「風花」を追って調べ上げ、わざわざ同じ学校へ来たんじゃないか、と疑ったほどだ。
 だけど、どうやらそんなことはなさそうだった。

 再会は偶然のこと。
 でも、だからこそ逆に妙な必然性を感じたのは、三枝の口にしていた“運命”なんてワードに惑わされたせいかもしれない。

 まさしく運命的な再会ではあった。

 「風花」として生きている彼女には、その想いまで心に残っているんだろうか?

 そんな疑問はあったものの、あくまで「風花」だというのなら、ふたりは結ばれて(しか)るべきなのかもしれなかった。
 シロツメクサの指輪に誓って。

 ────だけど、そう簡単に割り切れるわけがなかった。



 あの頃、俺はいま以上に寡黙(かもく)だった。
 クラスの大半が気味悪がって話しかけようともしない中、彼女だけは違った。

『おはよう、悠真くん』

 弾けるような笑顔で俺の名前を呼んでくれた。
 それがあまりに眩しくて、目を奪われる。

『一緒に帰ろ!』

 彼女だけがあの教室で、俺と対等に接してくれたんじゃないかと思う。

 でもそれが当たり前と思えなかった俺は、その帰り道で尋ねた。

『……おれが怖くない?』

『こわい? どうして?』

 心底不思議そうな顔で彼女は首を傾げる。

『悠真くんはやさしいでしょ。誰よりコットンのこと見てるよね』

 コットンは当時学校で飼っていた、白いうさぎのことだ。

『朝も帰りも毎日お世話してるの知ってるもん』

『それは……だって、大事だから』

 ばつが悪いような気恥ずかしさから、ちょっと言い訳じみた返事をして顔を背ける。

『大好きなんだね』

 ふふふ、と彼女は笑った。

『わかるよ。大好きなものはずっと見てたいし、近くにいたいよね』



 ────あの夏祭りの日、彼女と鈴森を見かけたのはたまたまだった。
 人の波を逸れて薄暗い境内(けいだい)の端の方へ歩いていったから、気になってあとを追いかけた。

 話している内容がはっきり聞こえたわけじゃないけれど、言い合いになったのか、流れる空気が険悪(けんあく)になったのを肌で感じ取る。

『ま、待って。結衣ちゃん────』

 引き止める声にも振り向かずに彼女が歩いていってしまうと、鈴森は落胆して肩を落とした。

 ショックを受けたように数歩後ずさったとき、ずる、と足を踏み外す。
 悲鳴とともに境内から落下していく。

『ふう、か……ちゃん……?』

 駆け戻ってきてふちから下を覗いた彼女もまた、動揺に引っ張られるようにして転落していった。
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