神殺しのクロノスタシス6
「ひぇぇぇ!ごめんなさいごめんなさい!呪わないで!お墓荒らしてごめんなさいーっ!」

「おい、ちょっと落ち着けって」

「悪霊たいさーんっ!」

「…マジで大丈夫か?」

…えっ?

恐る恐る顔を上げると、呆れ返った表情のジュリス君がこちらを見ていた。

「枝だよ。ほら」

ジュリス君は、お墓の影から落ちた枝の束を差し出した。

…枝にビビってたの?私。

多分羽久が見たら、心底呆れるだろうなぁと思った。

羽久じゃなくても呆れてるよ。ジュリス君が。

「…なぁんだ!もー、脅かさないでよっ…」

「あんたが勝手にビビってたんだろ…?」

ごもっとも。

「あんた、聖戦の救世主だろ?何で幽霊ごときにビビってんだ」

「うっ…。だ、誰だって、何歳になったって、お化けは怖いよ…」

救世主とか関係ないから。怖いものは怖いし。

お化けを怖がってるくらいだから、私は救世主に相応しくないってことだよ。

「そもそも、魔物は幽霊になるのか?これって魔物の墓なのか」

ジュリス君は素手で、すぐ近くにあった錆びた墓碑の煤を払っていた。

さ、触れるんだ、ジュリス君…。凄いね…。

私、とても触る勇気ないや…。

毛虫とか触れないタイプだから。お墓も無理。

「魔物にも墓を作る文化が…。…って、何語だ?これ」

「えっ?」

「…あんた、これ読めるか?」

ジュリス君の指差す墓碑には、不思議な記号…文字…?のようなものが刻まれていた。

ほとんどが潰れて、判別しにくいけど…。

「…分からない。何語だろうね?埋葬された魔物の…名前かなぁ?」

「聞いたことあるか?魔物が墓を作るなんて」

「…ないね…」

お墓を作るという文化は…人間特有、いや、現世特有の慣習だと思っていた。

冥界でも、そんな文化が…?

「とても信じられないが、ここに墓地があるってことは、墓を作る魔物もいるんだろうな…」

「そうだね…」

「一体何の種族なのか…。多分、マシュリの神竜族みたいに、高度な知能を持った魔物なんだろうな…」

「…」

「…おい、大丈夫か?」

「えっ?」

私は、じーっと崩れた墓石を眺めていた。

さっきまでは怖かったんだけど、それ以上に、何だか気になって…。

「どうした。何か気になることでもあるのか?」

ジュリス君、よく私の考えてることが分かるね。

私、そんなに分かりやすい?

「この…お墓に刻まれてる文字…」

「読めるのか?」

「いや、読めないけど…。でも、何処かで見たことがある…ような、ないような…」

「…どっちだよ」

ごめん。自分でも分からないや。

だけど、何故だろう。

初めて見たような気がしないんだよね。何処かで…。

…何処だろう?

記憶を辿りながら、私は、別の墓石の前に立って、ハンカチで汚れを払った。

罰当たりなことをしてごめんね。でも、やっぱり気になって。

なんて書いてあるのか、私には読めないけど…。

墓石に刻むくらいだから、多分、そのお墓に埋まってる人の名前や…生い立ちとかが書いてあるのかな?

せめて、知っている単語を一つでも拾えたら…。

「…どうだ?…読めるか?」

じっと墓石を見つめる私に、ジュリス君が尋ねた。

「いや…。やっぱり分からな…あっ」

その時、私はとあることに気づいた。
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