神殺しのクロノスタシス6
第6章

ナジュside

――――――…声がする。愛しい声が。

「…くん、ナジュ君、起きて。ここは駄目だよ」

「…」

「すぐに逃げて、お願い。禁忌に触れる前に…」

…この声は。

僕の…一番大事な人の声。

彼女の言葉を聞き返そうとしたが、しかし、現実世界から僕を呼ぶ、別の声に揺り起こされた。

「ナジュせんせー。起きて。死んでるの?」

「…死にませんよ、僕は…」

「あ、起きた」

目を覚ますと、そこにはリリスではなく、天音さんでもなく。

すぐりさんの姿が、そこにあった。

…あれー…?

「…何ですぐりさんなんですか?」

「さー?知らない。何でナジュせんせーなの?」

「さぁ…知りません」

冥界で起きる事象に、いちいち理由を尋ねる方が間違ってますね。

…とはいえ、これは誤算だった。

僕、天音さんと一緒に冥界を旅する予定で、一緒に来たはずなのに。

『門』を潜るなり、僕は天音さんと引き離された。

僕は最悪、冥界でどんな目に遭っても死なないから、一人でも大丈夫だけど。

天音さんが一人、単独行動になるのは不味いな、と思った。

「まさか、すぐりさんと同じ場所に飛ばされてるとは…」

運命の悪戯って奴ですかね。これが。

まぁ、一人じゃなかったことを喜ぼう。

その時僕は、すぐりさんの横に居るべき人間がいないことに気づいた。

「…すぐりさん、あなた、令月さんは?」

「分かんないねー。ここに来た時にはぐれて、行方不明」

成程。

僕が天音さんと引き離されたように、すぐりさんも令月さんとはぐれたんですね。

事前に決めたペア分け、もうぐっちゃぐちゃじゃないですか。

「近くにいるんでしょうかね?天音さんも、令月さんも…」

「さぁ…。人間の気配は全く感じないね。ナジュせんせーだけでも、見つけられて良かったよ」

「そうですね」

僕も、せめてすぐりさんと合流出来て良かったですよ。

「提案なんですが、お互い相棒が見つかるまで、行動を共にしませんか?」

「ナジュせんせーと組めってこと?」

「嫌なら、無理強いはしませんけど」

事前に決めたペア分けが崩壊した以上、現地で、臨機応変に動くしかないだろう。

「いーよ。ナジュせんせーと組んであげる」

それはどうも。

「じゃあ、しばらく宜しくお願いします」

「うん、よろしくー」

天音さんのことは心配だけど。

代わりに、気心の知れたすぐりさんと行動を共に出来るのだから、まだマシだったと思おう。
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