神殺しのクロノスタシス6
崩れた壁から、建物の中に侵入。

どうも。お邪魔します。

建物の中は、当然電気なんて通っていない。

暗くて、足元も覚束なかった。

床に穴空いてても気づきませんね。これ。

「懐中電灯とか、持ってくれば良かったですね」

「懐中電灯はないけど、ランタンならあるよ」

おっ?

すぐりさんは、持ってきた風呂敷包みの中からランタンを取り出した。

おぉ。すぐりさん、準備が良い。

「良いもの持ってますね、すぐりさん」

「でしょー?これ、いつも深夜のパトロールの時に使ってるランタン」

あぁ成程。愛用の品でしたか。

懐中電灯じゃなくてランタンってところが、またポイント高いですよね。

懐中電灯だったら、魔法道具の笛と同様、錆びて使い物にならなくなっていたことだろう。

すぐりさんのランタンのお陰で、ぼんやりとだが、視界を確保出来た。

薄暗いけど、これで足元くらいは見えそうですね。

僕はすぐりさんほど夜目が効かないので、心許ないです。

「足元、気をつけないと転びそうですね…」

廊下らしき床には、ありとあらゆるガラスの破片、そして砕けたコンクリートの瓦礫が散乱していた。

紙類の切れ端も散らばっているが、すっかり朽ちてしまって、なんて書いてあるのか読めない。

建物の中には、いくつもの部屋が並んでいた。

窓には、破れたカーテンが垂れ下がっていた。

うーん。雰囲気ある。

「お化けとか、出てきそうですね」

「え。冥界にもお化けなんているの?見てみたいなー」

同感。

僕、まだ幽霊って出会ったことないので。是非会ってみたいですね。

死ぬってどんな感じなのか、是非聞いてみたい。

僕は一生味わえない感覚なので。

人の気配、何ならお化けを探して、しばらく建物を歩いていると。

ふと、足元にとあるモノが転がっていることに気づいた。

「…これって…ビーカー?」

「びーかーって何?」

「知りません?理科の実験とかで使う…」

「あー。試験管のでっかいヤツ?」

試験管とはちょっと違いますが、まぁ、似たようなものです。理科の実験で使うアレですよ。

「ってことは、ここは理科室…?やっぱり学校…?」

「…ナジュせんせー、あれ」

「…!」

割れて使い物ならなくなったビーカーの、数メートル先に。

大小の、注射器のシリンジらしきものがいくつか散らばっていた。

「…学校に、ちゅーしゃきなんてあるかなー?」

「…ないですね」

少なくとも、イーニシュフェルト魔導学院にはないです。

精々、保健室にある天音さんの救急箱の中に、一本か二本入ってるくらい。

大小様々の注射器のシリンジなんて、学校ではお目にかかれないだろう。

ここが医療の専門学校だったら、その限りではないけど。

魔物の医療学校なんてあるとは思えない。

ってことは…ここはやっぱり学校じゃなくて…。

「病院…あるいは、何かの研究施設…?」

「…って感じだねー」

無人島に建設された、秘密の研究所ってところですか。

いやはや、全くわくわくさせてくれるじゃないですか。
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