神殺しのクロノスタシス6

令月side

―――――――…肌がピリピリと痛む感触がして、僕は目を覚ました。

「…。ここは…?」

周囲を見渡してみたが、薄暗くてよく見えない。

…こんな時こそ。

僕は瞬時に起き上がり、持参した風呂敷包みの中から、愛用のランタンを取り出した。

毎晩の深夜巡回の際にも使っている、優れもの。

ランタンに火を灯し、明かりを掲げて周囲の状況をよく観察してみた。

…ぐにゃりと歪んだ低い天井、壁、床に囲まれている。

どうやら、僕は不思議な空間に閉じ込められているようだ。

…ここが冥界?

何だか気味の悪い場所だね。

壁も天井も床も、踏みつけるとぶよぶよとした感触がして、大変歩きにくい。

おまけに、何やら粘液のようなもので覆われていて、まるでぬかるみを歩いているようだ。

水…じゃないよね。何?この粘液。

試しに、その粘液を指で触ってみた。

ぬめぬめとした感触。

まずは感触を確かめて、それから匂いを嗅いでみた。

…何だか、酸っぱい匂いがするような…。

何処かで嗅いだことのある匂い。決して良い香りではない。

酸っぱくて、何だか生臭い。

おまけにこの粘液、酸性なのか。

指で触った部分が、段々ピリピリとしてきた。

成程、さっき感じたピリピリとした痛みは、この粘液のせいだったのか。

多分毒の類だと思うから、舐めるのはやめておこう。

生臭そうだしね。

「…」

…さて、と。

周囲の状況を確認…したのは良いとして。

ぶよぶよした床や天井や、酸性の粘液や、薄暗い部屋(?)に閉じ込められていることは、とりあえず脇に置くとして。

それより、僕が気になるのは。

「…『八千歳』、何処にいるのかな…」

一緒に冥界の『門』を潜ったはずの、『八千歳』の安否。

これが一番気掛かりだった。

『八千歳』の無事を心配してるんじゃないよ。『八千歳』が誰かに遅れを取るとは思わないなら。

無事なのは分かってるけど、でもはぐれてしまったのは困る。とても困る。

…何処にいるんだろう?

折角二人一組のペアを決めて来たのに、初っ端から引き離されたんじゃ意味ないね。

こんなことなら、ペアなど決めず、最初から単独行動を前提にするべきだったかも。

なんて、今更言ってもどうしようもないか…。

『八千歳』だけじゃない。他の仲間はどうしてるだろう?

僕と『八千歳』みたいに、パートナーと引き離されたんだろうか…?

…と考えながら、僕はランタンを持って、ぶよぶよねちょねちょした床を歩いていった。

すると、不意に人の気配を感じた。

まさか、魔物? 

いや、魔物は気配がないんだっけ。ってことは…。

「…何やってるの?」

「…さぁ。何やってるんでしょう」

その人は、ぶよぶよの床に寝転んで、両腕を組んで頭の下に置いて、枕代わりにして。

ぼんやりと、低い天井を眺めていた。

この人って、確か…。

「聖魔騎士団の…空間魔法の人だね」

「おっと、ご存知でしたか…。不本意ながら、そうです」

「あと、死ぬほど面倒臭がりの人」

「それもご存知でしたか…。全くもってその通りです」

だよね、やっぱり。

名前は確か…ルイーシュって人だっけ。
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