神殺しのクロノスタシス6
試しに、溶けた笛に息を吹き込んでみたが。

すー、すー、と空気が抜ける間抜けな音がしただけで、全然鳴らない。

まぁ、そりゃそうだよね。

「これじゃ、仲間に連絡は無理だね」

「えぇ、無理ですね」

「仕方ない。これは持って帰って直すとして…。この場は、自分の足で脱出口を見つけるしかないね」

「はぁ…。他に方法はないですね」

よし、じゃあ頑張ろう。

いつ来るか分からない救助を、じっと座って待っているより。

自分に出来ることをして、動き回ってる方が遥かに気が楽だと思うよ。

ましてや、この状況じゃ、助けなんて期待出来ないしね。

「折角持ってきた遠足のお菓子も、この有り様ですし…」

「ドロドロだね」

「はぁ…気が進まない。でも、命があるだけマシですね。まずは、現在地の確認からしましょうか」

と、ルイーシュ。

「分かるの?現在地」

「さぁ、全く。ただ、冥界の何処かってことは確かですね」

だよね。

現世でこんな場所、見たことないし。

「冥界に現世の常識が通用しないのは百も承知ですが…。それにしたって、変な場所ですね…。何なんですかね?これ」

ぶにぶに、とルイーシュは粘液まみれの壁を指でつっついていた。

それ、触って大丈夫なの?

「まるで、そう…。中年太りのおっさんの贅肉みたいな感触ですね」

なかなか的確な例えだね。

「まずは、進むべき方向を確認したいですね。前に行くか、後ろに行くか…ですが、どっちにします?」

「前とか後ろって分かるの?」

「見たところ、ここ、一方通行みたいじゃないですか」

…確かに。

左右は壁で、進めるのは前方か、後方だけ。

前方はやや下り坂気味で、後方はやや上り坂になっている。

下り坂の方が暗く、上り坂の方が少し明るいようにも見えるけど…。どっちみち暗いから誤差だね。

「登るか下りるか、どっちにします?」

「こういう時は、上る方が良いんじゃなかったっけ」

山で遭難したら、下るんじゃなくて登れ、って聞いたことがある。

少なくともここ、山じゃないけどね。

「じゃあ、登ってみましょうか。…出口、向こうにあれば良いですけど」

ぶよぶよする、粘液まみれの床を踏みしめ。

僕とルイーシュは、何処に繋がっているのか分からない上り坂を登り始めた。
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