神殺しのクロノスタシス6
笛は、ピーとも鳴らなかった。

息を吹き込む度に、キュレムさんの吐き出した空気がボコボコと、泡になって消えていく。

「ふー。ふー。すー」

キュレムさんは諦めずに、何度も息を吹き込んだが。

やはり、笛は全く鳴らない。ただぶくぶくと泡が出てるだけ。

う、うん。

…まぁ、そうなるよね。

水の中で…リコーダーは吹けないよ。さすがにね…。

「…キュレムさん、キュレムさんってば」

「ふー。すー。すー」

「無理だよ。もう、やめておこう。ね?」

現実を受け止めたくないのは分かるけど。

何回吹いても、無理なものは無理。鳴らないものは鳴りません。

「…役に立たねぇじゃねぇかっ!」

「どうどう…」

ベシッ、と笛を床に叩きつけた…つもりが。

水の中なので、腕の動きは緩慢で、スローモーションで投擲しているようにしか見えない上。

投げつけられた笛は、ふわ〜…と水の中を漂っていた。

うーん…。…凄く間抜けに見えるね…。

「畜生、魔法道具封じか…!?竜族の野郎共、なかなか卑怯なことしてくれるじゃねぇか」

「りゅ、竜族のせいで湖の底に転送された訳じゃないと思うけど…」

「このままじゃ、仲間の位置も分からないまま、海の藻屑エンドだぞ!?どうしてくれるんだ」

こ、怖いことを言わないで。

「死ぬなら、せめて地上で…。お日様のもとで死にたかった…」

「諦めるのはまだ早いよ。水の中から脱出すれば、まだ何とか…」

脱出の方法を考えよう。

二人なら、きっと何とかなるはずだよ。

少なくとも、早々に諦めて、それこそ海の藻屑エンドになるのはやめよう。

「脱出、ねぇ…。簡単に言うけど、脱出の目処は立ってんのか?」

「うっ…」

そ、それは…。

そこを指摘されると辛いけど…。

「…浮上すれば良いんじゃないかな?見たところ、ここ、湖の底みたいだし…。このまま上に浮上すれば、いずれ湖から出られるんじゃ…」

「素人が一番最初に考えそうな作戦だな」

ごめんなさい。

でも、他に思いつかなかったんです。
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