神殺しのクロノスタシス6
「見てみろよ、上。太陽の光なんて全然見えないぞ」

キュレムさんは、上を指差してそう言った。

うっ…。

「さながら深海だな…。深海なのに、何でこんなに視界がクリアなのか知らねぇけど…」

太陽の光が届かないから、深海は真っ暗らしいもんね。

ここには太陽の光なんて全く差し込まないのに、それなのに、深海のように真っ暗で何も見えないようなことはない。

遠くまでは見えないけど、視界はほぼ、地上にいる時と同じだ。

「それに、水圧?浸透圧?的な理由で、深海から突然上に上がったら、死ぬんじゃねぇの?」

「そ、そういえば…」

「ごめんな。俺、理科の授業、サボるか寝るか理解出来てないかのどれかだったから、分からん」

大丈夫。僕も分かってない。

でも、深い水の中から突然浮上したらいけない、っていうのは僕も聞いたことがある。

耳の中がバリバリ言うんだよね。水圧で…。

つい、浮上したくなるけど…。むしろこの状況だと、水の中の方が安全なのでは…。

それに…運を天に任せて浮上したとして、そこに地上があるという保証はない。

何せ、ここは冥界なのだから。

何度も言うように、現世の理屈は通用しない。

「分かってると思うが、浮き上がるのは簡単だが、もう一回潜るのは大変だぞ」

「…そうだよね…」

さすがに、僕も素潜りの特技はないよ。

経験のある人なら分かると思うけど、素潜りって、動きは凄く簡単そうなのに、実際にやってみると相当難しいよ。

何度も練習して、訓練して身につくものであって。

なかなか、初めてのチャレンジで上手く行くものじゃない。

どんなに頑張っても、必死に足をバタバタさせるだけで、全然潜れないの。

人間の身体って、基本的に浮き上がるように作られてるからね。

ろくに泳げない、潜れないのに、不用意に動き回るのは危険か…。

「でも…じっとしてる訳にもいかないよ。こちらから笛を鳴らして助けを求めることは出来ないし…」

「何なら、こんな場所じゃ、誰かが笛を鳴らしてたとしても聞こえないもんなぁ」

そうだね。

もしかしたら、既に誰かか笛を鳴らしているかもしれない。

湖の底にいるせいで、全然聞こえてないだけで…。

だとしたら…何とかしないと不味いよね。

誰だって、まさか僕らが湖の底にいるなんて思わないよ。

「提案なんだけど、少し、水底を探検してみない?何か見つかるかもしれない」

ここでじっとしているよりは、せめて周囲の探索くらいした方が良いと思うんだ。

「そうさなぁ。他にやるべきこともないし…。…良いよ」

「ありがとう」

「海底探索かぁ…。少年なら心踊るんだろうけど、リアルだと不気味以外の何物でもないな…」

それを言わないで。夢がなくなるから。
< 125 / 404 >

この作品をシェア

pagetop