神殺しのクロノスタシス6

シュニィside

―――――――…学院長先生達が、冥界遠征に旅立ってから、およそ一時間が経過した。

この一時間は、まるで地獄のように長かった。

私は、じっとりと汗ばむ両手の拳を握り締めた。

…待っていることしか出来ない自分が、酷くもどかしかった。

今のところ、学院長先生達からは何の連絡もない。彼らがどうなっているのか、誰にも分からない。

果たして、竜の祠は見つけられただろうか。

冥界に住む魔物と遭遇していないだろうか?

私にとっては一時間という時間だけれど、学院長先生方にとってはどうだろう。

冥界の時間の流れは、現世のそれとは全く異なっていると聞いている。

もしかしたら、こちらの一時間は、冥界ではほんの数秒に過ぎないのかもしれない。

逆に、こちらの一時間が、冥界ではまるまる一週間くらい経っているのかも…。

彼らが危険な目に遭っていないかと、気が気ではなかった

…マシュリさんに生き返って欲しい気持ちは、私だって同じだ。

だけど、その為に他の仲間の命を危険に晒すのは、本当に正しい判断だったのだろうか。

考えれば考えるほど、酷く不安になる。

いや…そうじゃない。

仲間が危険な目に遭っているかもしれないのに、ぬくぬくと安全な場所で待っていることしか出来ない自分が、情けなくて仕方ないのだ。

やっぱり、もっと食い下がって…無理にでも、私も一緒に行くべきだった。

そうすれば、待っているだけの苦痛を味わわずに済んだだろうに…。

「…シュニィ、大丈夫か」

じっとりと汗ばんだ私の手に、アトラスさんがそっと触れた。

「アトラスさん…」

「心配なのは分かる。だが、学院長達なら大丈夫だ。信じて待っていれば良い」

…そうですね。

それが根拠のない気休めなのだとしても、アトラスさんにそう言われると、少し気持ちが楽になった。

それに、本当に大変なのは、待っているだけの私ではない。

それを忘れてはいけない。

危険に身を晒しているのは、他ならぬ学院長先生方、遠征メンバーの皆さんであり。

そして、今目の前にいる…。

「…はぁ…はぁ…」

「…吐月さん…」

吐月さんは、手首からポタポタと血を垂らしながら、冥界の『門』を開いていた。

遠征メンバーの帰り道を維持する為に、吐月さんはずっと、彼らが帰ってくるまで、こうして『門』を開き続けていなければならない。

吐月さんにとって、この一時間は、私より遥かに長く感じているに違いない。

本当に辛い思いをしているのは、遠征に行った皆さんと…そして、『門』を開いている吐月さんなのだ。
< 127 / 404 >

この作品をシェア

pagetop