神殺しのクロノスタシス6
「…大丈夫ですか、吐月さん…」

「…はい…」

私が声をかけると、吐月さんは頷いてみせた。

しかし、その表情には疲労が滲んでいた。

…当然だ。

契約召喚魔の…ベルフェゴールさんの力を行使して『門』を開くには、大量の魔力と、血の代償が必要だ。

出血量は、かなり抑えてあるはずだ。

それでも、一時間以上に渡って『門』を維持している吐月さんの苦痛、疲労がどれほどのものか。

私には、想像することしか出来ない。

あと、私に出来ることと言えば…。

「…ercovre」

私は杖を振って、魔力と疲労を回復する魔法を、吐月さんにかけた。

「大丈夫ですか?」

「はい…ありがとう。楽になりました」

吐月さんは微笑んで、感謝の言葉を述べた。

…感謝しなければならないのは、私の方です。

私には、このくらいしか出来ないから。

魔法で魔力の回復は出来るけれど、これは一時的な気休めでしかない。

失った魔力を全て回復することは出来ない。

だから、これはあくまで時間稼ぎにしかならないのだ。

多分、あと一時間は持つだろう。

でも、その後は?二時間後、三時間後…。もっと時間が経ったら?

その時、吐月さんは『門』を開く体力と魔力を維持しているだろうか?

その時、学院長先生はマシュリさんの心臓を見つけているだろうか?

…分からない。こればかりは…神様でもない限りは。

でも、私は神になど祈りません。

信じるだけです。…仲間を。

「皆さん…どうか、無事に帰ってきてください…」

私は両手を握り締め、祈った。

神ではなく、仲間達の為に。
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