神殺しのクロノスタシス6
「あなたと一緒に生きていたいの。まだ、あなたと同じ未来を見ていたいの」

「…」

「その為なら、自分達の命を危険に晒しても構わないと思うほどに」

スクルトは、僕に答えをくれた。

彼らが冥界に足を踏み入れ、禁忌を犯してまで竜の祠にやって来た理由を。

僕が認めたくなかった、向き合うのが怖くて、必死で目を逸らそうとしていたことを。

「私にも分かるわ。同じ気持ちだから」

「…スクルト…?」

「私もそうよ。…あなたの未来を守りたいの。あなたの明るい、幸福な未来を守りたい。その為に…自分が命を懸けることを厭わない」

…やめてくれ。

「僕はっ…そんなこと、一度も望んでなんか…!」

「あなたの望みじゃない。これは、私達の望みなのよ」

「…!」

僕の…じゃ、なくて。

スクルトや…学院長達、の?

これが…危険に身を晒してまで、僕を生き返らせることが、彼らの望み?

「目を逸らさないで。あなたの命は、まだ終わりじゃない。未来はまだ続いているのよ」

「そんな…。でも…」

「それとも、あなたはもう終わりたいの?生きていたくないの?」

…え…。

そんなことを言われたって…僕は…。

「だって…僕は生きていちゃいけない…。僕の存在そのものが罪だから」

「そうでなければならない。そうあるべきじゃなくて、あなたはどう思うの?」

「…!…僕、が?」

「そうよ。あなたはどうしたいの。生きていたい?それとも、もうおしまいにしたい?」

…僕は。

僕の居場所なんて、この世の何処にもないって…長い間、ずっとそう思い続けて…。

自分の居て良い場所、帰るべき場所を求めて…現世と冥界を、ずっと彷徨い続けた。

何処かに、石を投げられずに生きていられる場所があるかと。

何処かに、誰も僕を罵らずにいてくれる場所があるかと。

…何処かに、僕を必要としてくれる場所があるか、と。

唯一見つけた僕の希望…スクルト…を、この手で引き裂いてしまったあの時から。

そんな場所はないって、思っていた。

やっぱり僕は駄目なんだ。誰にも受け入れられない、存在しちゃいけないんだって…。

…だけど、そうじゃなかった。

シルナ学院長は…羽久は、シュニィは。

イーニシュフェルト魔導学院の皆や、聖魔騎士団の人々は。

僕に居場所をくれた。ここがお前の居場所だから、ここに戻ってこいって。

僕を…大事な、仲間だって言ってくれた。

僕の罪を…僕のものじゃないって。そう言ってくれた…。

本当に嬉しかった。僕も生きてて良いんだって思えた。

これからようやく、幸福な未来が待っているんだって…。そんな未来を、僕が仲間達と共に作り上げていくんだって…。

…そんな希望を、抱いていたのに。

その矢先に、僕は大いなる意志によって…処刑されてしまった。

僕にはもう、未来なんて存在しないんだ。
< 131 / 404 >

この作品をシェア

pagetop