神殺しのクロノスタシス6
ベリクリーデに背中を押されるようにして、遺跡の祭壇から離れようとした、

その時だった。

「…!ベリクリーデ!」

「…来たね」

気配は、全く感じなかった。

当たり前だ。相手は魔物なのだから。

神聖な場所を侵した侵入者を取り囲むように、現れた魔物達がこちらを睨んでいた。

背中から巨大な羽が生えて、両目と両耳が吊り上がっている。

俺、そんなに魔物には詳しくないから、これが何の種族か分からないが。

マシュリと同じケルベロスや、神竜バハムート族じゃないのは確かだな。

他の魔物に見つかったか。…もしかして、この遺跡を守る番人に目をつけられたか?

「俺達に戦意はない…って、口で言っても理解してくれそうにないな」

「やる気満々だもんね。…どうする?応戦する?」

ベリクリーデはいつの間にか、片手に銀色の剣を握っていた。

その剣…見覚えがある。

アーリヤット皇国との決闘で使ってた剣だよな?

めちゃくちゃ格好良い抜刀術を使ってた…。

「どうしても避けられないなら応戦するが…。出来れば、戦いは避けたい」

「そうだね」

俺達の目的は竜の祠を探すことであり、正体不明の魔物と戦うことではないからだ。

ここで戦っても、無駄な体力と魔力を消費するだけだ。

出来れば戦わずに、平和的にお引取り願いたい。

…でも、果たしてそんな平和主義が通用するだろうか?

魔物達は敵意丸出しの視線を向け、じりじりとこちらとの距離を詰めてきた。

やべぇ。来てるぞ。

…悠長に考えてる暇はないか。

とにもかくにも、この場を切り抜けなければ…。

「…仕方ない、ベリクリーデ。一緒に戦っ…」

と、ベリクリーデの方を振り向いて言いかけた時。

何処からか、耳元で、ちりん、と鈴の音がした。

…え?

ベリクリーデにも聞こえたらしく、彼女も驚いてこちらを見ていた。

「…今、鈴の音が…」

「聞こえたね。何処から?」

「何処からかなんて問題じゃない。今の鈴の音って…」

聞き覚えがある。

今の鈴の音は、普段学院にいる時に、マシュリが…。

マシュリが猫の、いろり形態の時につけている、名前入りの首輪の鈴の音だ。

間違いない。

何でいろりの…いや、マシュリの首輪の鈴の音が、今ここに聞こえ、

ちりん、とまた音がした。

「…!」

反射的に、音のした方に振り返ると。

そこには、俺とベリクリーデを取り囲む羽の生えた魔物達とは違う、異形の魔物がいた。
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