神殺しのクロノスタシス6
『マシュリ』が足を止めた、その先にあったのは。

亀裂だった。赤黒い、冥界の『門』と似たような亀裂。

何もない空間を、ナイフで切り裂いたような裂け目。

『マシュリ』は、その亀裂の隣で足を止めた。

あぁ、そう。そういうこと。

この裂け目に飛び込めと。この先に行けと言ってるんだな。

「羽久…!行くの?」

ベリクリーデも気づいたようで、俺の意志を確認してきた。

そうだな。これが罠ではないという保証はない。

でも、背後に迫る魔物との距離は、もう既に一メートルを切っている。

奴らが手を伸ばせば、あっという間に俺は捕まってしまうだろうという距離。

だったらもう、迷っている暇なんてない。

俺はマシュリを信じる。

「行くぞ!」

強くそう叫んで、俺は躊躇わずに次元の裂け目に飛び込んだ。

同じようにベリクリーデも、一切の躊躇なく一緒に裂け目に向かって飛んだ。

ついでに、後ろを追い掛けてきた魔物達も、裂け目に飛び込んでくるかと思ったが。

奴らは裂け目の前で足を止め、それ以上は追ってこなかった。

この場所から出ていくならそれで良い、と言わんばかりに。

もしかしてあの魔物達は、あの遺跡の番人だったのではないだろうか。

俺とベリクリーデを殺す為じゃなくて。

ただ、あの神聖な場所を踏み荒らされたくなくて、俺達を追い返したかっただけなんじゃないだろうか。

ふとそんなことを考えたが、勿論、答え合わせをする方法なんてない。

…それよりも。

「いっ…てぇ…!」

裂け目に飛び込んだ拍子に、受け身を取れずに、そのまま地面にダイブするように転げ落ちた。

頭打った…。いってぇ。

「大丈夫?羽久」

「あ、あぁ…」

俺とは対象的に、ベリクリーデはあの状況でも、綺麗に受け身を取って着地出来たらしく。

こちらに向かって、手を差し伸べてくれた。

俺が間抜けみたいじゃないか。ありがとうな。

…って、そんなことより。

「…!マシュリは…?」

あの『マシュリ』も、裂け目を通ってきたのか?

しかし。

「…何処にもいないね」

「…」

周囲を見渡してみても、先程の『マシュリ』の姿はない。

その代わりに。

蔦や木々を覆われた、暗く深い洞窟の入り口が、俺達の前にあった。

「…この、場所って…」

…もしかして、目的の場所。

竜の祠…なのか?
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