神殺しのクロノスタシス6
しかも、更に恐ろしいことに。

気の所為だろうか。視界の端で、何かがキラッと光ったように見えた。

恐怖のあまり、神経が尖っているからだろうか。

普段なら見過ごすような小さな変化にも気づいて、いちいち反応してしまう。

一方、(羨ましいことに)全く怯えていないジュリス君は、その変化に気づかなかったようで。

「で?思い当たる節があるなら、今のうちに話し…」

「…!じゅ、ジュリス君、あそこ。あれ」

「…何だよ?」

私はジュリス君の言葉を遮って、震えながら、何かが光った…ように見えた場所を指差した。

「い、今…あそこ、何か居なかった…?」

我ながら、声が震えていた。

「はぁ…?何も居ねぇだろ。あんた、話したくないからって適当なこと言って誤魔化そうとしてんじゃ…」

「ち、違うよ!ジュリス君相手に、そんな卑怯なことはしないよ」

どうしても話したくないことだったら、話したくないからごめんね、って断るよ。

そうじゃなくて、本当に。本当に今…何か光ったような気がしたんだ。

「…?どの辺だ?」

「あ、あそこ。大きい木の陰…!」

「あぁ、あの木か…。柳に似てるが、ここは冥界だから、別の木なんだろうな…」

柳の木って。肝試しの定番みたいな植物じゃないか。

昼間に見ると、長い枝がカーテンみたいに幾重にも重なり合って、なんとも風情のある木なんだけど。

夜中に見ると、お化けが手招きしてるようにしか見えないから不思議。

や、やめてよ…。ただでさえ怯えてるのに、何で冥界に来てまで、柳の木にビビらなきゃいけないの。

「何も居ないと思うけど…。そんなに気になるなら、見てこようか?」

「い、い、良いから!ひ、一人にしないで!私を一人にしないで、一緒にいて」

「あ、そう…。多分気の所為、ん?」

ん?って何?

「じゅ、ジュリス君?どうしたの?」

「いや…。今、何か居たか?」

ちょ、ジュリス君まで。やめてよ。

「わ、私をビビらせようとしても、そ、そ、その手には乗らな、」

「嘘じゃねぇよ。ほら、見てみろ」

ジュリス君に言われて、先程の柳の木を見ると。

…血まみれの白装束を着た、髪の長いのっぺらぼうの女性が、じっとこちらを見ていた。

あっ…。えっと…。

…ど、どうも。

…。

人間、本当にびっくりしたら、固まって声が出ないものだね。

「何だ?あれ…。まさか魔物、」

「で…出たぁぁぁぁぁっ!!」

「うるさっ…!」

冷静に分析しようとする、ジュリス君の鼓膜を破らんばかりに。

私は、渾身の叫び声をあげた。

その場で気絶しなかっただけ、自分を褒めたい。
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