神殺しのクロノスタシス6
「お、お化け!お化けだ!お化けが出たぁぁぁぁっ!」

「耳元でうるせぇ!ここは冥界なんだぞ。幽霊の一人や二人いても…」

「呪われちゃう!井戸に引っ張り込まれちゃう!テレビから出てくる!チェーンソーで切り刻まれる〜っ!!」

「…色々混じってるな…」

逃げなきゃ、とにかくあのお化けから逃げなきゃ、と。

脳みそは必死に警告音を鳴らしているのに、身体が言うことを聞いてくれなかった。

「は、はにゃほれひれ〜…」

膝から力が抜けて、ジュリス君に縋り付くようにその場に崩れ落ちた。

だ、駄目だ…。足が立たない。

「落ち着け。襲われると決まった訳じゃないだろ。人の気配を感じて、様子を見に来ただけかもしれない」

ジュリス君は、何でそんなに冷静なの?

森の中でクマに遭っても、物凄く冷静にその場を立ち去って、難を逃れるタイプだね。

私だったら、悲鳴を上げて逃げ出すと思う。そして追いかけられるまでがセット。

「下手に刺激するんじゃなく、黙って静かに…。…!」

言いかけたジュリス君が、突然言葉を止めた。

「な、何?どうしたの?」

突然黙らないでよ。何があったのかってこわっ、

…しかし。

私は「それ」を見て、その場に凍りついた。

あろうことか。

のっぺらぼうのお化けは、身体をぐねぐねとくねらせながら、こちらを目掛けて迫ってきた。

心臓が止まった。私の心臓が。もう。

「…みゃ…!…ふにゃふれはれ〜…」

「お、おい。腰を抜かしてる場合か!逃げるぞ」

「む、無理。無理だよ、身体から力が…」

「じゃあ置いてくぞ」

それだけは嫌だった。

「やだ、置いて行かないで!お化けに食べられる〜っ!!」

「食べられるより、襲われる心配をしろよ。ほら、行くぞ!走れ!」

人間、本当の本当に命の危機を感じると、意外と足腰動くものだね。

と言うか、ジュリス君に「置いていくぞ」って脅されたからだと思う。

走らなきゃ死ぬ、襲われるとなると、本能的に走り出す。そういう生き物だよ人間って。

…しかし。

「ぴ、ぴきゃぁぁぁ!?」
 
「っ、何だよ!?」

「ま、前!前!」

走り出したその先で、またしても、今度は違うお化けが私達を待ち受けていた。

今度はのっぺらぼうじゃなくて、猫だった。

なーんだ、猫ちゃんなら可愛いものじゃないか、と思ったそこの君。

その猫ちゃんが、まさか普通の猫ちゃんじゃなくて。

尻尾が二つに分かれ、しかも左半身が異様に膨張した、冥界特有の猫ちゃんだとは思わなかったでしょう。

「ちっ、今度は化け猫かよ…!」

ジュリス君も気づいたみたいだね。

「でも、化け猫の一匹くらいなら…!」

実力行使とばかりに、ジュリス君は懐から杖を取り出した。

しかし。

「…!ジュリス君、待って!」

「それ」に気づいて、私は慌ててジュリス君を止めた。

「はぁ!?」

「あれ…あの子がつけてる首輪…!」

あの猫ちゃんは。確かにジュリス君の言う通り、化け猫かもしれないけど。

猫ちゃんが首につけている、鈴付きの首輪には見覚えがあった。

あれは…紛れもなく…!
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