神殺しのクロノスタシス6
更に、瓶詰めホルマリンの他にも。

注射器、ビーカーや試験管の破片、黒いシミがあちこちについた包帯。

錆びたメス、ハサミなどが転がっていた。

これだけ見れば、ギリギリ病院…という線も考えられなくないが。

「うわー、見てよナジュせんせー。これ」

「えぇ。グロいですね」

恐らく、手術室だった場所なのだろう。

その部屋の中央には、半壊した巨大な手術台が置かれていた。

そして何より目を引くのは、その手術台に取り付けられた、非常に頑丈な、鉄製の手錠と足枷。

手術台に乗せられた「患者」が、決して動かないように固定する為の拘束具。

これが、普通の病院の手術室だろうか。

普通の病院なら、手術する時は麻酔をかけるのだから、こんな頑丈な拘束具は必要ないでしょう。

それなのに、こんな拘束具があるということは…。

最早疑いようがない。

「やっぱりここ、何かの実験施設?けんきゅー施設?だったんだね」

「…恐らく、そうですね」

この手術台に乗せられていたのは、「患者」じゃなく「実験体」だったのだろう。

冥界の魔物が、一体何の実験をしていたのか…。

わざわざ、人里離れた無人島に、隠すように建てられた研究施設…。

…うーん。絶対ろくなものじゃないですね。

想像が捗りますよ。…嫌な想像ばかりですけど。

「研究資料みたいなの、残ってないのかなー?」

そうですね。

もし研究資料が残されていたら、ここで行われていた研究が何だったのか、検討もつくというものですが…。

「カルテの残骸…らしきものは落ちてますけどね」

床のあちこちに、紙切れの残骸が散らばっている。

試しに、紙切れの残骸を拾ってみると。

そこに書かれている文字を読む前に、朽ちた紙が粉々になって、ひらひらと手のひらから溢れていった。

…経年劣化が酷くて、紙媒体はどれも全滅ですね。全く読める状態じゃない。

「なーんだ、つまんない」

「仕方ないですよ。相当長い間放置されてたみたいですし」

「そーみたいだね。…おっ、こっちにも広い部屋があるよ」

恐れ知らずのすぐりさんは、ここが研究施設だろうと病院だろうと関係ない。

好奇心の赴くままに、ずんずん進んでいった。

初見のRPGゲームでも、ノーセーブでプレイするタイプですか。スリリングですね。

まぁ、僕達がやってるのはゲー厶じゃないんで。セーブもロードも出来ませんけど。

「うわぁ…。見てよナジュせんせー、ここ」

「今度は何ですか?」

「めっちゃグロい部屋だよ。ほら」

「…うわぁ…」

すぐりさんに案内されて入ってみると、その部屋は…さながら、牢獄の家畜小屋だった。

大きな鉄製の、非常に頑丈な檻がいくつも、いくつも並べられている。

檻の前には、掠れた文字が彫ってあった。

何語なのか分かりませんけど、多分、番号かコードネームか何かを彫ってあるんでしょうね。

この檻に入れられた実験体…被験体の番号なんでしょう。

檻の中にも、巨大な手錠と足枷が、短い鎖に繋がれていた。

うーん。いかにもって感じ。

これは見たくなかったですね。
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