神殺しのクロノスタシス6
しかし、そう簡単には逃してもらえない。

檻の部屋を出ても、関係なしに化け物は追いかけてきた。

「うわぁ…。しつこい。まだ追いかけてきてますよ」

「めちゃくちゃだね、あいつ。痛覚とかないのかな」

本当ですね。

僕とすぐりさんは、廊下に散らばっているガラスの破片や、崩れた壁の欠片を避けるようにして逃げているが。

あの化け物には、そんなことは関係ない。

ガラスの破片だろうと壁の残骸だろうと、平気で踏みつけて追いかけてくる。

破片が裸足の足の裏に突き刺さっても、全くお構いなし。

ひたすら雄叫びをあげながら、こちらに向かって突進してくる。

「…これは不味いかもしれませんね」

こちらは、落ちているものを避けながら、慎重に逃げ道を確保しなければならないのに。

向こうは、何が落っこちていようとお構いなしに、真っ直ぐに迫ってくるのだ。

このままじゃ、いずれ追いつかれる。

そうならない為には…。

僕は瞬時に考えを巡らし、そして決断した。

「すぐりさん、先に一人で逃げてください。あなた一人なら逃げ切れるでしょう」

「はぁ?」

すぐりさんは僕より遥かに俊敏だ。一人だけなら逃げられる。

多分、この状況だと僕が一方的に足手まとい。

だったら、先に一人ですぐりさんを逃がす。

命に残機のないすぐりさんを無事に逃がすことが、何より優先だ。

「先に…そうですね、最初に辿り着いた無人島の浜辺の近くで待っててください。後で、そこで落ち合いましょう」

「ナジュせんせーはどーするのさ?」

「ここで足止めをします」

すぐりさんが無事に逃げ切るまで、時間を稼ぎますよ。

例え勝てなくても、時間稼ぎくらいなら出来るでしょう。

「あんな化け物相手に、ナジュせんせー一人で…」

「忘れましたか?僕は不死身なので。いかに相手が化け物だろうと魔物だろうと、僕は死にません」

「そーいうの気に入らないなぁ。俺のこと、逃してもらわなきゃいけないお姫様だとでも思ってんの?」

お姫様だとは思ってませんけど。

逃してあげなきゃいけないとは思ってますよ。大人の責任としてね。

「問答している暇はありません、早く…」

と、僕が言いかけたその時。





ちりん、と鈴の音がした。

…えっ?

その聞き覚えのある音に、僕も、すぐりさんも、化け物に追われていることも忘れて振り向いた。

すると、そこにいたのは…左半身が異様に膨らんだ、化け猫だった。
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