神殺しのクロノスタシス6

令月side

――――――…こちらは、謎の肉壁空間を探索中の僕とルイーシュ。

とにかく上に登ってみよう、と登り坂を上がってみたものの。

心音みたいな音は消えないし、険しかった登り坂はとうとう垂直になって登れないし。

仕方ないから初期位置に戻って、今度は下り坂を降りてみると。

足元に溜まった粘液の水溜りが段々深くなって、地下足袋が溶けてきて歩きにくい。

おまけに、物が腐ったような匂いと、酸っぱいような何とも言えない匂いが重なって、鼻が馬鹿になりそう。

それでもひたすら歩き続け、ようやく広い部屋に辿り着いた。

…けれども。

「…うわぁ…」

これには、ルイーシュもドン引き。

うん。確かに気持ち悪いね。

ドロドロの粘液のプールの中に、消化中の溶けた肉の塊のようなものが、いくつも転がっている。

何の肉なのか分からないけど、溶けかかってて原型を留めていない。

腐った匂いは、あの溶けた肉のせいか。

…もう疑いようがないね。

「この部屋って、やっぱりどう考えても…」

「…一生懸命目を逸らしてきたつもりですが、さすがに無理ですね」

「そうだね」

僕は目を逸らしてないけどね。ずっと、そうじゃないかなって思ってた。

でもルイーシュが「言うな」って言うから、言わなかったけど…。

「…ここ、多分何かの生き物の身体の中だね」

「…そうみたいですね」

何でこんなことになったのか、さっぱり分からないけど。

冥界なんだから、どんなことが起きてもおかしくないよね。

でも、まさか何処の誰かも分からない、魔物のお腹の中に送り込まれるとは。

いつの間に丸呑みされちゃったのかな。

ねちょねちょした酸性の粘液は、多分胃液。

ドクンドクンと定期的に響く重い音は、多分心音。

登り坂を上った先にあった、垂直の井戸の底みたいな場所は…。あれは気管かな。

そして、さながら胃液のプールの中で、ドロドロに溶かされている肉塊。

ここは…胃の中だろうね。多分。

そう考えると、色々と辻褄が合う。

「ここに居たら僕達、あの肉の塊みたいに、消化されるのかな?」

「餌ですか、俺達は。美味しく食べられたんですか」

「僕は美味しくないと思うけど…。…餌になってるのは確かだね」

このままだと、あの肉の塊みたいに。

ドロドロに溶かされて、たんぱく質となって吸収されてしまうかもしれないね。

お腹の中で消化される食べ物って、こんな気持ちなんだ。

初めて知った。なかなか興味深い、新鮮な感覚だね。
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