神殺しのクロノスタシス6
ドロドロとした胃液の中を、ずんずん歩いていく。

「うわぁ、気持ち悪い…。よく歩けますね、令月さん」

「どうせ溶かされて栄養になるにしても、自分の居る場所くらいは知っておきたいからね」

それに、胃の中に溶け残っているものを見たら。

僕達が、どんな生き物に食べられたのか分かるかもしれない。

胃の中がユーカリの葉っぱばっかりだったら、コアラのお腹の中だって分かるし。

胃の中がチョコレートばっかりだったら、学院長のお腹の中だって分かるでしょ?それと同じで。

この胃の中にあるのは、何の肉か分からない、腐りかけの大きな肉の塊。

豚肉でも牛肉でもなさそうだけど…。これ何の肉だろう?

僕達と同じ、人間の肉か?

「生肉の状態だと、何の肉か分かりませんね…。うぇ、気持ち悪い匂い…」

僕の後ろから、鼻をつまんだルイーシュがついてきた。

「生肉、そのまま食べるんだね」

火を通して食べたら良いのに。そのまま齧りついたのかな。

「しかも、生肉しかないですよ。胃の中」

確かに。

僕とルイーシュも生肉のうちに入るとしたら、確かに生肉だけだね。

野菜も果物もない。肉だけ。

栄養バランスが非常に偏っている。

野菜も食べた方が良いよ。健康の為にも。

ってことは、僕達を食べたのは肉食動物なんだろうか。

冥界の肉食動物…。どんな生き物なんだろうね?

しかも…。

「見てくださいよ、あれ」

「…うん。骨だね」

胃の隅っこの方に、大量の白い塊が溶け残っていた。

脂肪かと思ったけど、あれは骨だ。

溶け残った、大小様々の白い骨が、大量に胃の中に残されていた。

一体何日分の骨なのか、それとも骨の消化には時間が掛かるのか…。

試しに、小さめの骨を選んで拾い上げる。

小さいとはいっても、鶏や豚の骨とは訳が違う。

密度の高い、ずっしりした骨だ。

「なかなか立派な骨だね」

「人間のものですかね?」

「いや、これは人間の骨ではないね」

人間の骨にしては太い。そして大きい。

人間じゃない、多分大型動物の骨だと思う。

頭蓋骨があれば分かりやすいんだけどね。

人間の骨とか臓器には詳しいけど、他の動物のこととなると、分からないや。

「ふーん…。ってことは、魔物の骨ですかね。さながら、冥界の恐竜といったところでしょうか」

その恐竜の胃の中にいるんだから、あんまり他人事ではいられないよ。

「まぁ、何の動物でも構いませんね…。美味しく食べられたんだから、大人しく栄養分になりましょう」

えっ。

「…諦めるの早いね」

このまま、溶かされるのを待つつもりなんだ。

それも一つの手ではある。人間、諦めも大切だからね。
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