神殺しのクロノスタシス6
僕だって、いかなる時でも手段を見つけて、問題を解決出来るのならそうしたいけど。

いつもいつも、何とかなることばかりじゃないからね。

どうしてもどうにも出来ないと思ったら、その時は素直に諦める。

このまま、謎の魔物の胃の中でたんぱく質になるなら、それは仕方ない運命だと諦めよう。

…でも。

諦めるのは、今じゃない。

まだ、やれることは残ってると思うんだ。

「僕は、まだ諦めるつもりないよ」

「えぇ。抵抗するんですか?無駄な努力だったら疲れますよ」

「助かる為にする努力なら、無駄な努力なんて一つもないと思うけど」

例え、最終的に胃の中で溶かされたとしても。

やれることは全部やってから死にたいじゃない?

死ぬ時に「ああしていれば」と後悔することになったら、きっと凄く悔しいと思うんだ。

やれること全部やって死ぬなら、納得して死んでいけるでしょ?

「はぁ…。あなた、大概諦めの悪い人ですね」

「それに、こんなところで、胃液に溶かされて死んだなんて、後で『八千歳』に知られたら笑われそうだから」

もしそうなったら、僕は『八千歳』の中で永遠に、「消化されて死んだ間抜けな奴」として覚えられることになる。

それは嫌だな。

「確かに。俺も、キュレムさんを笑うのは良いですけど、キュレムさんに笑われるのは嫌ですね」

「だったら、助かる為に努力してみない?」

出来る限り抵抗して、やれることは全部やって。

諦めるのは、その後で良いんじゃないかな。

どうしたって、人間、一度しか死ねないんだから。不死身先生以外は。

潔く早々に諦めて死んでも、無様に最後まで足掻いて死んでも、死ぬことに変わりはないのなら。

最後の一秒まで、僕は抗うよ。

「…やれやれ、結局そうなるのか…。…分かりましたよ。もう少し、抵抗してみましょうか」

「うん、ありがとう」

一人より、二人の方が良い知恵が浮かんでくるかもしれないからね。

手伝ってもらえるなら有り難い。

「…と言っても、これからどうします?」

「…そうだね…」

とにかく、まずはここを出ることが先決だ。

これ以上長くここにいたら、僕達もあの肉の塊のように、胃液に溶かされて死んでしまう。

かと言って、気管を這い上がって脱出するのも難しい。

咳でもしてくれたら、ポンッと口から出られそうだけど。

そんなに都合良く、咳してくれるだろうか。

あるいは…。

「…常識的に考えて、生き物の身体で、『外』に繋がってる場所と言えば…」

何箇所かあるね。口とか、目とか。耳とか。

へその穴とか?

とすると…。

「上から出るのは難しい…。じゃあ、いっそこのまま降りていって…。下から出る?」

「それは、相当勇気が要りますね」

「そうだね」

でも、それで出られるなら手段は問わないよ。僕は。
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