神殺しのクロノスタシス6

羽久side

―――――――…その頃、イーニシュフェルト魔導学院では。






「…はぁ…」

「羽久せんせー、まーた溜め息ついてるよ。これで何回?」

「今ので12回」

すぐりの質問に、即座にそう答えた令月(れいげつ)の手元には。

正の字が書かれた半紙と、筆が握られていた。

…何でご丁寧に数えてんだよ。やめろ。

他人の溜め息の数を数えるなんざ、無粋にも程がある。

更に。

「そんなに心配しなくても、大丈夫だと思いますけどね」

「…ナジュ…」

「僕もそう思うよ。学院長先生なら、きっと大丈夫」

「…天音(あまね)…」

教師仲間の二人も、口を揃えて大丈夫だと。

俺が心配し過ぎだって言うのか?そんなことはないだろ。

その証拠に、他の教師仲間は…。

…ん?

「…イレースは何処行った?姿が見えないけど…」

「学院長のことなんてハナから心配せずに、補習授業に行ってますよ」

…さすがイレース。

今頃、ルーデュニア聖王国の未来を揺るがす…かもしれない「会談」が行われているというのに。

補習授業かよ。

イレースはアレだな。大地震が起きても天変地異が起きても、通常通り授業を行ってそうだな。

じゃあ、もう一人…。

…ん?

「…マシュリは?」

あいつも姿が見えないぞ。何処で何をやってる?

「あ、さっき中庭ですれ違ったよ。いろり…猫の姿だったけど」

と、天音が教えてくれた。

「これから猫の集会なんだって。夜までには帰るって」

「あいつ…。猫と人間の二重生活を満喫してやがる…」

人間なのか、猫なのかはっきりしろ。

…皆して、呑気な顔しやがって。

一人で心配している俺が、馬鹿みたいじゃないか。
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