神殺しのクロノスタシス6
な…何?

「い、今の、何…?」

「さ…さぁ。聞き間違い…だったら嬉しいけど、さすがに無理だよな…?」

「…うん、無理だと思う…」

恐る恐る、二人で音のした方を振り向く。

…何もいない。

…ホッ。

「…なーんだ!やっぱり気の所為じゃないか。ったくビビらせやがっ、」

「あっ…」

…居た。

ギョロギョロとした目の、歪に捻じれた生首が。

あまりにもびっくりし過ぎて、声が出なかった。

僕は、声もなく固まってしまったが。

キュレムさんはと言うと、目を真ん丸にして、しばらく時が止まったように生首と見つめ合い、

そして、渾身の叫び声をあげた。

「…ぎゃぁぁぁぁ!ホラー映画みたいな登場すんな!!」

音のした方にバッと視線を向けるも、何もいない。

そのことに安心して視線を戻すと、そこに幽霊がいる…って、確かにホラー映画あるあるの演出だよね。

だけど、これはスクリーンの中の出来事じゃないから。

現実でそのシチュエーションに遭遇すると、怖いとか怯えとか通り越して、声が出なくなるね。

今ここにナジュ君がいたら、きっと冷静に「おっ、面白そうなのが出ましたね〜」とか言いそう。

僕の脳内のナジュ君が、そう言ってるのが聞こえてきたよ。

全然面白くないよ。ナジュ君…。

「な、ななな何なんだあれ!?」

「わ、わわ…分からない…」

一体、何の化け物なのか。

まるで、超巨大な海の竜のようだ。

その巨大な海竜は、水の中をのたうつように蠢いた。

ひぇっ…。グロテスク…。

重い轟音のような呻きをあげながら、蛇の如き体躯をぐねぐねと動かし。

あろうことか、威嚇するかのように牙を剥いた。

何処からどう見ても、完全に捕食態勢ですありがとうございました。

さっきの貝塚に捨てられてた骨って、もしかしてこの魔物が食べた骨…?

だとしたら、僕達も今から、あの骨の山に加えられる可能性が高い。

…逃げなければ。ともかく、何をしても絶対に逃げなくては。

「に、逃げよう、キュレムさん!」

「って、言っても…俺、泳ぎ苦手なんだけど!?」

そういえば、ここ水の中なんだった。

走ろうと思っても、水の中をジタバタもがいているだけで、陸のようには走れない。

ましてや向こうは、泳ぎのエキスパートな訳で。

泳ぎで勝負したって、絶対勝てっこない。

かく言う僕も、それほど泳ぎが得意な訳じゃない。

って言うか、どんなに泳ぎが得意な人でも、さすがに本職の魚類には敵わないよ。

と、するとどうするか…。

「か、隠れながら逃げよう!あの…崩れた瓦礫の裏とか!」

「おぉ、そうか。地の利を活かすんだな。よし、それだ!」

そうと決まれば、一目散。

僕とキュレムさんは、崩れかけた海底都市を隠れながら逃げることにした。
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