神殺しのクロノスタシス6
そして。

俺達が『マシュリ』に導かれ、辿り着いたこの場所には。

「…いかにも怪しそうだな」

「意味深ですよね」

改めて俺は、目の前の荘厳な洞窟に視線を向けた。

どうぞ入ってください、と言わんばかり。

『マシュリ』が導いてくれたんだから…きっと、危険な場所ではないと思うけど…。

「もしかして、ここが竜の祠なのかな」

皆が思っていたことを、ベリクリーデが代弁してくれた。

…そうだったら最高だよな。

「分からないよな。入ってみないことには…」

「…行こう。悩んでる時間が惜しい」

シルナがそう言い、皆も頷いた。

「うぇー…。折角巨人の胃の中から脱出したのに、今度は洞窟ですか」

「新しい冒険の始まりだね」

ルイーシュと令月が言った。

…巨人の胃の中、ってどういうこと?

話は後で、帰ってから聞かせてもらおうか。

令月とすぐりの持つランタンを明かりにして、俺達は洞窟に足を踏み入れた。

はぐれている間に、皆が冥界の何処を彷徨っていたのか知らないが。

俺とベリクリーデは、さっきまで古代遺跡みたいなところを探索していたから。

ここから、更に洞窟とは…。何だかハラハラ感が続くな。

さっきまで、変な…ガーゴイル的な魔物に追いかけ回されてたからさ…。

…また追っかけてきたりしないよな?

後ろが気になって、チラッと振り向いてみると。

「えっ…!」

背後を振り返って、俺は思わずぎょっとした。

…嘘だろ?

「ど、どうしたの羽久?」

「シルナ…!う、後ろ…」

「えっ!何?またのっぺらぼう!?」

のっぺらぼうって何?

ちげーよ。そうじゃなくて。

「…なくなってるね」

他の皆も気づいたようだ。

洞窟に入って何歩か歩いて、後ろを振り返ってみると。

そこには、もう洞窟の入り口はなかった。

森の中に繋がっていたはずの入り口は、忽然と何もない空間に変わっていた。

…逃げ道、塞がれたんだけど。

「どっ…。これ、どうするの…?」

「良いじゃないですか。ここから先は、どうあっても迷わずに、ただ前に進めば良いんですから」

ナジュ。お前ポジティブだな。

自分は死なないからって余裕ぶちかましてるのだろうが、俺達の命は有限なんだからな。

つーかここは冥界なんだから、不死身のナジュだってどうなるか分からないんだぞ。

「退路を絶たれたな…。この先、行き止まりだったらどうすりゃ良いんだ…?」

「この出口を塞がれた洞窟で、食人魔族に襲われたらひとたまりもないですね」

…食人魔族?

なんて物騒な…。いくら冥界と言えど、そんな恐ろしい魔物は…。

「…ふっ、羽久さん。あなたは甘いですね」

俺の心を読んだらしいナジュが、そう言った。

「甘いって、何がだよ?」

「今ここにいるメンバーが、ついさっきまで何に追いかけられていたかを知ったら、きっと腰を抜かすでしょうよ」

「…マジかよ…」

皆何かに追いかけられてたのか。そうなのか?

…この後、互いに離れ離れになっている間、実際に皆がどんな目に遭っていたのかを聞いて。

本当に腰を抜かすことになるのだが、それはもう少し先の話である。
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