神殺しのクロノスタシス6
な…何だよ?

そこで立ち止まらないでくれ。二人は目が良いから見えるかもしれないが、俺には薄暗くて見えない。

しかし、すぐに俺も、令月達が見つけたものが見えた。

薄ぼんやりした暗闇の中に、松明のような明かりが灯されていた。

あれって…?

洞窟の最奥にあったのは、松明の明かりと、そして…。

「…!あれ…」

「…神竜…バハムート…」

まるで、御神体を守る万人のように。

一匹…いや、一体の竜が、俺達を待ち受けていた。

そして同時に、ようやく分かった。

俺達が『マシュリ』に導かれて、辿り着いたこの洞窟こそ。

目的地であった、竜の祠なのだと。

ということは…ここに、マシュリの7つ目の心臓が…。

「…ここまで辿り着けば、あとは分かりやすいね」

「えっ?」

いつの間にか、令月はランタンの代わりに愛用の小太刀を握り締めていた。

なんか、刀身にべったりと黄色い脂肪が付着してるんだが…。それ、一体何を斬ったんだ?

「あいつを倒せば、心臓もらえるってことでしょ?簡単な話だよねー」

すぐりもまた、得意の糸魔法を両手に絡ませていた。

準備が早いぞ。お前達。

そして血の気が多い。

「ちょっと待って、あの竜…。…よく見て。眠ってない…?」

そんな令月とすぐりを、天音が制止した。

…眠ってる?

確かによくよく見てみると、洞窟の奥には祭壇のようなものが設けられ。

その祭壇を守るように、巨大な一体の竜が寝そべっていた。

その両目は、固く閉じられている。

…あ、本当だ。寝てる…。よく見えたな、天音…。

「…」

何だろう。なんだか拍子抜けだな。

ここぞとばかりに竜が待ち構えてるから、「神聖なる眠りを妨げる者は誰ぞ」と、竜の怒りを受けるものだと思っていたが。

まさかの昼寝中。

「シルナみたいな奴だな…。肝心な時に間抜けで…」

「ちょっ、私に対する風評被害だよ、それは!」

うるせぇ。大声出すな、竜が起きたらどうするんだ。

「まさかだけど、あいつが寝てる間に心臓をちょいっと…拝借するつもりなのか?」

「…戦わずに済むなら、その方が良いんじゃないのか?」

「マジかよ。せっこいこそ泥…」

やめろ、キュレム。言うんじゃない。

セコくても良いんだよ。それでマシュリの心臓を取り戻せるなら。

「完全に空き巣の手口ですね」

「寝てる方が悪い」

盗られたくなかったら、ちゃんと起きて守ってろよ。

遠慮なくもらっていくぞ。俺は。

「…よし、起こさないように、慎重に…」

抜き足差し足忍び足で、祭壇に近づい、



「…来たか。人の子らよ」



突然、洞窟の中に低く重い声が響き。

ただでさえ緊張していた俺の心臓が、びくっと跳ね上がった。
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