神殺しのクロノスタシス6
眠っていたはずの神竜バハムートは、ゆっくりと重たい瞼を開けた。

「お…起きてたのかよ…!?」

目を閉じていただけってヤツか。そうなのか。

それとも狸寝入りかよ。竜の癖に。

「いいや、眠っていた…。…つい先程までな」

やっぱり狸寝入りじゃなくて、本当に寝てたらしい。

もっと静かに入ってくれば良かった。

そうしたら、寝てる間に気づかれずに…。

しかし、何もこの神竜バハムートは、俺達が騒がしいせいで起きたのではないらしく。

「祠の封印が解けたのを感じて、長い眠りから覚めたのだ…」

と、神竜は語った。

…祠の封印…。

「ということは…やっぱり、ここが竜の祠なんだね」

「竜の祠か…。随分大仰な呼び方だ。ここは単なる老いぼれの巣穴に過ぎん」

シルナの問いに、神竜がそう答えた。

老いぼれ…。この神竜のことか。

よく見たらこいつ、竜の鱗は所々剥げ、色艶も悪く、尻尾や耳も張りがなく垂れ下がっていた。

なんだかやつれたような姿に見えなくもない…が、神竜族って老いるのか?

「老いぼれって、あんた…一体何歳なんだ?」

「さて…いくつだったか…。現世の時間で言うなら、恐らく1億年は生きているだろうな」

「いっ…!」

…1億、だってよ。

俺とシルナは、びっくりして顔を見合わせた。

すげー。シルナより年寄りは世の中にいないと思ってたが、上には上がいるもんだな。

「なに…。大したことはない。お前達がこれまでの一年、十年を振り返るように、私は1億年を振り返るだけだ」

達観してんなぁ。哲学者か?

「私がこれほど長く生きているのも、ひとえに、残された一つの役目を果たす為よ」

「役目…?」

「そんなことはどうでも良いけど、君、心臓持ってるの?」

令月が、単刀直入に老神竜に尋ねた。

自分より遥かに、遥かに年上の相手に。物怖じしないな令月は。

「そーだよ。マシュリの心臓。持ってるなら返して」

すぐりも。

「ここにあるんでしょ?」

「心臓…。マシュリ・カティアの心臓か…」

やっぱり知ってるんだな。

ここが竜の祠なら、マシュリの心臓もここに…。

「俺達は、マシュリの心臓を取り戻しにきたんだ。竜の祠って場所に、7つ目の心臓が封印されてるって聞いて…」

「そうか…。あの者はお前達に託すことを決めたのだな」

…?

どういう意味だ?

「この場所に、私以外の存在が足を踏み入れたということは、そういうことだ。あの者が自らの命運を託し、己の原罪を受け入れて進むことを決めた…」

…勝手に一人で喋って、勝手に一人で納得してるな。

そういうのは困るぞ。ちゃんと共有してもらわないと。

「…よく分からねぇけど、俺達は今から、封印を守るあんたと戦わなきゃいけないのか?」

例え神竜バハムートだろうと、老いぼれ竜の一匹くらい、今の俺達なら何とかなるだろう。

RPGゲームだと定番だろ。「封印を解きたければ、封印の守り人を倒して進め」みたいな…。

俺達も今から、それをやらせられるんじゃないか。

…と、思ったが。

「いいや、その必要はない…。お前達がここに辿り着いた時点で、既に封印は解かれている。マシュリ・カティアの心臓…持っていくが良い」

「…」

予想以上に話の分かる竜で、拍子抜けしてしまった。
< 169 / 404 >

この作品をシェア

pagetop