神殺しのクロノスタシス6
「マシュリ・カティア…。人間とケルベロス族の血を引いて生まれた、罪の子。聞けば、遥か昔、人間と結ばれた一匹のケルベロスとの間に子が生まれたことから始まると言う。

そうして生まれた、人間と魔物血を引く子供は、どっちつかずの異形のバケモノとして、同族から忌み嫌われ、一族を追放された。

更に、ケルベロスの一族の呪いを受け。

以降、彼らの子孫は未来永劫、同じように異形の姿を背負った子供が生まれるという呪いを背負ってしまった。…そこまではお前達も知っているな?」

…あぁ。知ってるよ。

マシュリの口から聞かされた。…くそったれな話だ。

人間と魔物が結ばれて、子供が生まれて…たったそれだけのことで、何でマシュリの祖先は迫害を受けなきゃいけなかったんだ。

しかも、以降生まれる子供に呪いが引き継がれるなんて…。

仮に罪を犯したのだとしても、それは親達だけであって、生まれた子供には何の責任もないのに。

そんな簡単なことが、あの頭の悪い連中には分からないのだ。

「…とはいえ、それだけなら、私達には関係のないことだった」

…と、老神竜は語り続けた。

「ケルベロス族の仲間内での諍いなど、私達には関係なかった…。…無関係でいられなくなったのは、その呪いを受けたケルベロスが、我ら神竜族の一人と結ばれ、子が生まれてしまったからだ」

…誰のことかは、言わなくても分かるな?

「許されることではなかった。誇り高き神竜バハムート族でありながら、他種族と…それも、よりにもよって、呪いを受けた異形のバケモノと…。

一族の目を盗むように子を為していた…そのことを責められ、更に、生まれた子も批難を浴びた。このような罪の子を、一分一秒でもこの世に存在させてらならないと。

故に…一族の中では、生まれてすぐ、子を処分するべきだという意見が出た。一族の大多数が、その意見に賛成だった…」

…なんだと?

話の雲行きが怪しくなってきた。

マシュリは、生まれてすぐ処分されるところだった…。

頭の固い誇り高い(笑)神竜の一族に。

「でも、殺されなかったんだよな…?」

「あぁ…。一族の中でたった一人、マシュリ・カティアの助命を嘆願した者がいたからだ」

…!

そんな奴がいたのか?頭の固い連中の中にも、常識が通用する者がいたんだな。

そいつのお陰で、マシュリは生まれてすぐ処分されることなく、生きることを許された…。

マシュリにとっては、命の恩人(恩竜?)だな。

「誰なんだ?その話の分かる神竜は」

「…私だ」

…お前かよ。

なんか…ちょっと、話が見えてきたぞ。

「一族皆が、マシュリを殺してしまえと主張する中…族長だったあんただけは、マシュリの処刑に反対した。恐らく、そのせいであんたは失脚し、族長の座を追われた…。…そういうことか?」

「あぁ…。そうだ」

なんてこった。

マシュリの恩人は、他ならぬ俺達の目の前にいた。

成程、さっきからずっと…話が分かる奴だと思ってたら。

神竜バハムート族の中でも、唯一常識が通じる相手だったんだな。
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