神殺しのクロノスタシス6
「じゃあ、僕稽古場に行ってきますね」

生徒に名指しされ、ドヤ顔のナジュである。

はいはい。イケメンカリスマ教師。はいはい。

「ちょっ…ちょ、ちょっと待って!」

シルナが、慌てて生徒達を止めた。

「わ、私だって実技を教えるのは得意だよ!ナジュ君にだって負けてないから!」

やめとけ、シルナ。

甘党おっさん学院長よりも、若くてイケメンな教師の方が、女子生徒に好かれるのは当然というものである。

「え?学院長先生はいいです」

「ナジュ先生に教えてもらうので」

「普段の実技授業の担当も、ナジュ先生ですし」

「また今度にしてください」

四人の女子生徒に順番に、ばっさりと切り捨てられ。

シルナ、撃沈。

やっぱり、時代はイケメンカリスマ教師だってさ。残念だったな。

教師として、シルナの教え方が下手くそだとは言わない。

シルナだって、それなりに教師歴は長いんだから、教え方のコツは分かっている。

ただ、ナジュが規格外過ぎるんだ。

何せ相手の心を読めるのだから、もうそれだけでチートみたいなものだ。

「な、ならせめて…。どら焼きを、そうチョコどら焼きを食べていって!」

シルナは涙目になって、必死に食い下がった。

せめておやつだけは、自分と一緒に食べていってくれと。

しかし。

「え?要らないです」

「お腹空いてないので」

「早く稽古場に行きたいですし」

「また今度にしてください」

四人に順番に、またしてもばっさり切り捨てられ。

シルナ、再び撃沈。

…ちょっと可哀想になってきた。

「ふふふ。残念でしたね学院長。イーニシュフェルト魔導学院イチのイケメンカリスマ教師の座は、僕がいただきました」

勝ち誇るナジュ。

ムカつくドヤ顔だなぁ…。

「それじゃ、早速稽古場に行きましょうか」

「はい!宜しくお願いします、ナジュ先生」

四人の女子生徒と共に、まさに両手に花状態で。

ナジュは颯爽と、稽古場に向かった。

…で、取り残されたシルナは。

「げ、元気出してください。学院長先生…」

「あ…天音くん〜…」

おっさんの癖に、瞳をうるうるさせるシルナ。

良かったな、天音がいて。

いつも励ましてくれてさ。

で、そんなことはどうでも良いんだよ。

「…あのさ。ナツキ様との会談…」

「さて、暇になったけどどーする?」

「園芸部の畑に行って、草むしりでもしようか」

「お、いーね。ツキナが喜んでくれるかも。じゃ、行こっかー」

チョコどら焼きを食べ終えた元暗殺者組は、窓からひょいっと飛び降りていった。

園芸部の畑に行ったと思われるが。

窓から出るな。ちゃんと階段を降りろ。

目撃した人がいたら、腰を抜かすだろうが。

あいつらもあいつらで…危機感ってものがない。

…イレースは補習授業だし、ナジュは稽古場だし。

令月とすぐりは草むしりだし、マシュリは集会だし…。

…肝心のシルナは、

「ナジュ君に生徒取られた〜っ!」

「だ、大丈夫ですよ。生徒達は皆、学院長先生のことを慕ってますから」

…生徒に相手にされなかったせいで涙目になり、天音に慰めてもらっている有り様。

…なんかもう、悩んでる自分が馬鹿馬鹿しくなってきたな。
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