神殺しのクロノスタシス6
俺は、全速力で駆け出した。 

もう今日だけで、一体何回全力ダッシュしたことか分からんな。

これが最後だと願いたい。

しかし…。

「くそっ、一体何処まで行くんだ…!?」

マシュリの心臓は、一体何処を目指してるんだ?

さっきまで死んだように大人しく動かなかったのに、現世に戻ってきた途端に…。

その時、俺ははたと気づいた。

「…あの方向って…」

マシュリの心臓が飛んでった、あの場所。

聖魔騎士団魔導部隊隊舎の、地下を目指していた。

地下には、万が一隊員が殉職した時に使う、遺体安置所がある。

…今も、マシュリの遺体を安置している場所に。

…まさか。

「マシュリ本体を目指してるのか…」

マシュリの身体に戻ろうとしてるんだな。そうなんだろう?

行き先が分かったなら、あとは先回りするだけだ。

俺は、真っ直ぐに魔導部隊隊舎の地下を目指した。

そこには、学院から移されてきたマシュリの遺体が、寝台に寝かされていた。

「マシュリ…」

固く閉ざされた、その瞼。

死んでいるようにしか見えない。…実際死んでるんだが。

この身体に、心臓を戻したとして、果たして本当にマシュリは生き返るのだろうか。

今更だが、そんな不安に襲われた。

すると。

「うわっ…!来た…!」

先回りしていた俺に遅れて、マシュリの心臓が遺体安置所にやって来た。 

ここに来るまで、この空飛ぶ心臓を、他の隊員に見られてなければ良いのだが。

傍から見たら、正体不明の赤い石が空を飛んでいるようにしか見えないぞ。

しかし、そんな俺の心配や不安をよそに。

深紅の石のような心臓は、マシュリの身体の上で、ピタッと静止した。

…ようやく、戻るべき主の肉体を見つけたんだな。

生まれてすぐ、神竜バハムート族の手によって、身体から引き離された7つ目の心臓が。

今ようやく、マシュリの身体に戻ろうとしていた。

「マシュリ…。…!」

どくん、息を吹き返したように。

マシュリの身体が、ゆらりと宙に浮かんだ。
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