神殺しのクロノスタシス6
墓場で幽霊に襲われたんだよ、と泣きつくシルナや。

大男の胃の中で、危うくたんぱく質として吸収されかけた令月など。

冥界遠征メンバーの話だけでも、充分お腹いっぱい状態だったが…。

「えっ、一週間…?俺達が冥界に行ってから、こっちではそんなに経ってるのか?」

「はい」

驚いたのは、現世残留組の話だった。

なんと、俺達が現世を留守にしている間に、もう一週間以上経っているそうだ。

嘘だろ?そんなに?

「そんなに時間が経ってるなんて…。こっちとしては、冥界にいた時間は体感、3〜4時間位なんだけどな…」

冥界の3時間が、現世の一週間とは。

「まぁ、そのくらいで済んで良かったと思うべきでは?」

と、俺の心を読んだらしいナジュが言った。

「現世に帰ってきたら、とっくに学院が廃校になって、ルーデュニア聖王国がアーリヤット皇国の領土の一部になってたりしたら、何の為に冥界に行ったのか分からなくなりますよ」

ちょ、やめろって。そんな恐ろしいことを言うな。

でも、そうなる可能性もあったんだよな。

俺達が冥界に行ってる間に、現世では何百年、どころか何千年も経っていたら…。

帰ってきた時、俺達に居場所なんてない。

…想像するだけで、背筋が冷たくなるな。

「そうか…。それなら、一週間程度で済んで良かったな…」

「一週間『程度』ですって?こちらの苦労を知らないから、そんな呑気なことが言えるんです」

何故か、目を吊り上げたイレースに叱られた。

ひえっ。

「その間、魔力を消費して冥界の『門』を開き続けた我々の苦労は無視ですか」

「うっ…。そ、それは済まん…」

「済まんじゃ済みませんよ。全員、危うく死にかけてたんですから」 

そ、そうなのか?

そういえば、吐月を始め、シュニィもイレースも、非常に疲れた顔をしている。

自分達以上に、冥界遠征メンバーの方が疲れているだろうからと、何も言わないでくれているが。

いつ戻るか分からない遠征メンバーの為に、帰り道である『門』を維持し続けてくれた彼らの苦労は、並大抵のものではあるまい。

…非常に申し訳ない。

ある意味、冥界遠征に行った俺達より、ハードだったよな…。

「ごめんな、本当…。疲れさせて…」 

「そ、そんな…。無事に帰ってきてくださって、何よりです」 

シュニィは、微笑んでそう言ってくれた。

「私達だけでは、『門』を維持することは難しかったでしょう。でも、そこにイレースさんとルディシアさんが助っ人に来てくれて…」

「そうだったのか…」

じゃあ、俺達が冥界に閉じ込められることなく帰ってこられたのは、彼らのお陰なんだな。

ルディシアの奴は、『門』を閉じるなり、また何も言わずにふらりと消えてしまった。

何処へ行ったのやら。お礼くらい言わせろよ。

「こうして、また皆揃って顔を見ることが出来て、凄く嬉しいよ」

シルナが、涙ぐまんばかりに言った。

…そうだな。

特にマシュリ。お前に言ってるんだぞ。

「…よし、そうとなれば、皆で再会のチョコケーキを食べよう!お疲れ様会と、マシュリ君おかえり会を合わせて、盛大にチョコケーキを、」

「そんなことはどうでも良いですが、マシュリさん」 

「そんなこと!?」

うっきうきで、特大チョコケーキ入りのケーキボックスを取り出そうとしたシルナは。

呆気なく、イレースに「そんなこと」呼ばわりされて撃沈。

残念だったな。ケーキは後回しだ。
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