神殺しのクロノスタシス6
誰よりも真っ先に動いたのは、元暗殺者組の令月とすぐりだった。

さすがと言うべきか、目にも留まらぬ速さだった。

一瞬の後には、男の首に令月の小太刀が、そしてすぐりの糸が絡みついていた。

一歩、どころか半歩でも動いたら、二人の鋭い刃が、男の首を豆腐のように切り落とす。

令月とすぐりに遅れて、俺達も臨戦態勢を取った。

「お前…!どっから入ってきた…!?」

まるで気配を感じなかった。

足音の一つも聞こえなかった。

俺だけじゃなくて、暗殺者である令月とすぐりまで、姿を見るまで気付かなかったのだ。

今だって、目の前に居るはずなのに、まるでマネキン人形を相手にしているかのように…。

こいつ…本当に人間か?

「人間じゃありませんよ、この人」

険しい表情をして、ナジュがそう言った。

えっ…。

「僕の読心魔法が通用しない。ってことは、人間じゃないってことです」

「何だと…!?」

…確か、ナジュの読心魔法は人間にしか効かないんだったな。

マシュリやリリスなどの、魔物の心を読むことは出来ない。

ってことは、こいつ…。

「こいつも魔物なのか…!?」

一体何処から。『門』を潜って来やがったのか?

マシュリの心臓を取り返しにでも来たのか。まさか、神竜族の手の者…。

「正体など、どうでも良いことです」

あれこれと考える俺をよそに、イレースは、バチバチと雷を迸らせる杖を握り締めた。

「学院に無断侵入する不届き者は、誰であろうとこの手で成敗するだけです」

強い。さすがイレース。

でも、一応相手の素性くらいは確かめてから黒焦げにしてくれよ。

うっかり学院を訪ねてきたお客さんだったらどうするつもりだ?

とはいえ、今回のこいつは、とても「お客様」には見えない。

それに今、とんでもないことを口走らなかったか?

「お前…。今、自分がマシュリを殺ったって言ったな…?」

聞き逃さなかったぞ。俺は。

…お前が何者なのかは知らないが。

マシュリを殺ったってことは、どう考えても俺達の敵だな?

それさえ分かれば充分だ。

「よくも、マシュリを…」

憎しみに満ちた敵意を向けられても、その男は飄々とした表情を崩さなかった。

随分余裕じゃないか。

「また、マシュリを殺しに来たのか…!?」

今度こそ、7つ全ての心臓にとどめを刺すつもりで…。

「…だとしたら、どうします?」

首に令月とすぐりの刃を向けられていながら、逆に挑発じみた台詞を吐いてきた。

「…決まってるだろ、そんなの」 

わざわざ聞くまでもない。

ここにいる全員の命を危険に晒してでも、苦労してマシュリを生き返らせたのだ。

もう二度と、奪われて堪るものか。

「お前を完膚なきまでに叩きのめせば、二度とマシュリに手出しは出来ないだろ?」

この世には、怒らせちゃいけない相手がいるんだってことを教えてやるよ。
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