神殺しのクロノスタシス6
脅すだけだと思っていたのに、本当にやったぞ。この二人。

指を折るだけならまだしも、手首を落とすのは完全に殺しにかかってるな。

さすが元暗殺者。敵に容赦がなさ過ぎる。

「あぁっ…!?なんてことを…!」

手首を落とされ指を折られた本人より、シルナの方が動揺していた。

「やり過ぎだよ、いくらなんでも…!」

「やれって言われたからやっただけだよ」

「そーそー。学院長せんせーもいつも言ってるじゃん。嘘をついたらいけません、って」

だから有言実行しました、ってか?

これには、さすがに謎の男も少しは動揺するかと思ったが。

「やり過ぎ…か。この程度でやり過ぎとは…。随分とお優しいことで」

とか何とか言って、床に転がった自分の手首をひょいっと拾い上げ。

切り落とされた切断面に、ぐっとくっつけた。

「…!」

たったそれだけで、接着剤でもつけたように、手首が繋がった。

…なんていう再生速度だ。

令月に切り落とされたんだぞ?

この再生速度…。ナジュ以上…マシュリにも匹敵する。

ということは、こいつはやっぱり冥界から来た魔物…。

「お前…魔物なのか。なんていう種族だ…?」

「魔物…?まさか。あのような下等種族と一緒にしないでください」

手首をくっつけた謎の男は、今度は折られた指を元通りに治しながら言った。

「魔物じゃないなら、お前は何だ」

「ご心配なく。私は皆さんの敵ではありません。争う為ではなく、親交を深める為にここに来たのです」

「はぁ…?」

親交を深める為?

それって、どういう…。

「さて、余興はこのくらいで結構」

謎の男は、そう言うなり。

パチンと指を鳴らして、マジックのように白いテーブルクロスを開いた。

…は?

な、何をするかと思えば…。

「では、早速お近づきの印に、こちらをどうぞ」

爆弾でも押し付けてくるのか、と思いきや。

その男は、大きなケーキボックスを置いた。

な、何だ?それ…。

「…!その箱のロゴ…。ま、まさか…!」

真っ先に反応したのは、シルナだった。

「知ってるのか?シルナ…」

「そ、それは…。いや、まさか。でも、そんなはず…!」

めちゃくちゃ動揺している。シルナが。

何なんだ。やっぱり、冥界の魔法道具とか、

「そう、ご明察です聖賢者殿。こちらは、ルーデュニア聖王国王都セレーナより遥か南、南方都市リオンの老舗チョコレート店で販売されている、チョコスフレケーキです」

は?

「そ、そんな…!まさか、あそこのチョコスフレケーキは週末限定、しかも一日に僅か10個しか販売してなくて、取り置きも予約もない早い者勝ちだから、王都に住んでる私には、とても手に入らなくて…!だから長い間ずっと諦めてたのに…!」

「お近づきの印と思えば、この程度容易いものです。喜んでいただけましたか?」

「えっ。食べて良い?このチョコスフレケーキ、私食べても良いのっ?」

「勿論です。聖賢者殿に召し上がっていただく為に調達したのですから」

「わぁい!ありがとう!君は私の恩人だよ…!」

「そうですか。それは何より」

…えーと。

…話についていけなくなってきたんだけど?
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