神殺しのクロノスタシス6
…とりあえず、俺が真っ先にやるべきことは。

「わぁい、やったー!まさか人生で、このチョコスフレケーキにお目にかかることが出来るなんて…!長生きしてて良かった!」

「おいシルナ。ちょっと待て」

「ほわぁ〜!ふわっふわで美味しそう〜!」

「いい加減にしろ!」

「へぶっ」

シルナの脳天に、渾身のチョップを食らわせてやった。

こうでもしなきゃ、こいつ、今目の前にケーキしか見えてない。

「な、何するの羽久?」

まともにチョップを食らってしまったシルナ、涙目。

「何するのはこっちの台詞だ。まさかお前、そのケーキ食べるつもりじゃないだろうな…!?」

「えっ。食べちゃ駄目なの?」

駄目に決まってるだろ。何言ってんだお前。

「はっ!大丈夫だよ、羽久。独り占めなんてしないよ。皆にも分けるから!皆で食べよう!」

違う、馬鹿。俺も食べたいとかそういうことじゃない。

食べることそのものが問題なんだよ。

「お前、敵にもらったものを口にする気か?何入ってるか分かったものじゃないだろ!」

「えっ…!」

思ってもみませんでした、みたいな顔をするな。

駄目だ。チョコレートの魔力を前に、シルナは驚くほど無力。

「心配しなくても、毒物は一切入っていませんよ」

謎の男はそう言ったが、敵の言うことなど、到底信じられるはずがない。

「そう、そうだよ羽久。凄く美味しそうなチョコレートの匂いがする。これに毒なんて入ってるはずがないよ」

「無味無臭の毒かもしれないだろ。とにかく食うな!そのケーキは捨てろ!」

「えぇっ!!勿体ないよ羽久!このお店のチョコスフレケーキ、もう人生で二度とお目にかかれないかもしれないんだよ…!?」

それどころか、それを食べたら二度と日の目を拝めなくなるかもしれないって分かってるのか?

「そういうことなら、ちょっと失礼」

「あっ、ナジュ君」

ナジュが、ケーキの端っこの方を指で摘み、ひょいぱく、と口に入れた。

摘まみ食い、ならぬ毒味である。

「…うん、毒が入ってる感じはありませんね。身体も何ともないですし」

「遅効性の毒だったらどうするんだ…?」

「ナジュ君…!無理し過ぎだよ」

ナジュを心配した天音が、思わず青ざめていたが。

毒味をしたナジュが、突然苦しみ出して倒れる…ということはなかった。

「むしろ、普通に美味しいケーキでしたよ。生地がふるっふるで。チョコレートも濃厚で…」

「ふわぁぁぁ!やっぱり食べたい〜っ!!」

「…」

…もう、いっそ毒入ってても良いから食べさせるべきじゃないかと思った。

緊張感がないにも程がある。

「…もういっそ食べさせて、そのまま死ぬならそれでも良いのでは?好物で死ねるなら本望でしょう」

「奇遇だな、イレース…。俺もその方が良いんじゃないかと思ってたところだ…」

今ここでケーキを捨てたら、それこそシルナは死ぬほど落ち込みそうだ。

敵の手管にまんまとハマって、どうするんだよ。これ。
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