神殺しのクロノスタシス6

「何を考えている…とは？」

「俺達を懐柔して、何をするつもりだ？」

絶対何か企んでる。良からぬことを。

その為だろ？わざわざ俺達の機嫌を取るような真似をするとは。

天使であるお前が、こんな召使いじみたこと、進んでするはずがない。

「きっとこれも、お前の深謀遠慮の策の一環なんだろ。俺達が気を許したところを、後ろから刺すつもりで…」

「随分と物騒なことを考えなさる。あなたも誰かにそのような手管を使ったことがあるんですか？」

うるせぇ。話を逸らすな。

「怪しいんだよ、お前は。当たり前だろうが」

「そうですか？私にとっては、イーニシュフェルトの聖賢者と、その仲間でありながら、邪神に味方するあなた方が怪しいですが」

うっ。

的確に痛いところを突いてきやがる。

「それに、私はあなたが思うようなことは何も考えていませんよ」

「信用出来るとでも？」

「信じたくないなら結構です。何が起きようと、智天使様の御意志が私の意志。私があなた方の背後を取るとしたら、それは私の意志ではなく、智天使様のご判断です」

あぁ、そうかい。

つまり、その智天使様が心変わりして、「今すぐシルナ・エインリー一行を殺せ」と命じたら。

今すぐに、お前は俺達の敵になる。そういうことだな？

…余計信用出来ねぇ。

「心配されなくても、智天使様はあなた方の寝首を掻くようなことはなさいませんよ」

俺の考えを見透かしたように、リューイが言った。

「あっそう。お前は信用してるんだろうが、俺はその智天使様とやらに会ったことないからな」

会ったこともない奴を、「あの方はそんなことするような人じゃない」と主張されても、信用出来るはずがない。

それに、忘れてはいけない。

「その智天使様が、マシュリを殺したんだろ」

リューイがどうであるかは別にして、少なくとも俺達にとって、リューイのご主人様は敵だ。

だって、その智天使様がマシュリを殺したんだから。

「それは…事実ですが、しかし、智天使様の御意志ではありません」

何だと？

「じゃあ誰の意志だよ？」

「他の二人の上位天使様と話し合って決めたことです。聖神ルデスの裏切り者たる、シルナ・エインリーに裁きを下す為に」

「…！」

「…」

俺は勿論、チョコスナックを摘んでいたシルナの手が止まった。

裏切り者…。

「智天使様は最後まで反対しておられました。しかし、強硬策を主張する他のお二人…熾天使様と座天使様に押し切られ、やむを得ず地上に降りられた」

「…」

「せめてこの手で、苦しまずに済むようにと、智天使様自ら手をくだされたのです。…まぁ、心臓が一つ冥界に封印されているとは、思っていませんでしたが」

あっそ。

じゃあ、その言い方じゃ、マシュリが殺されたのは…。

「…私のせいなんだね？マシュリ君が天使様に殺されたのは」　

「…シルナ…！」

それは違うだろ。お前は何も、

しかし。

「そうなります。あなたに味方をしている時点で、この学院にいる教員達は全員、我々天使の敵なのです」

「リューイ…！お前…！」

「良いんだよ、羽久。分かってるから…」

何が分かってるんだよ。

そういうこと言うから、またシルナが何か問題が起きる度に「自分のせいで…」を自分を責めるようになるんだ。

冗談じゃない。