神殺しのクロノスタシス6
…仕方ない。不毛な話し合いはここまでだな。

生徒に、リューイと…それから人間形態のマシュリの姿を見せる訳にはいかない。

そこのところを理解しているマシュリは、いろり形態に『変化』した。

令月とすぐりは、いつの間にか窓から出ていってしまった。

音もなく出ていきやがったぞ、あいつら。いつの間に。

「リューイ。お前もちょっと…姿を消してろ」

「良いですよ」

そう答えるなり、リューイはスッと姿を消した。 

瞬間移動か何か?

とにかく、これで学院長室の中にいるのは、教師陣といろり(猫)だけだ。

「はいはい、どうぞー。いらっしゃい」

シルナは学院長室の扉を開け、やって来た生徒を部屋の中に招き入れた。

「失礼しまーす」

女子生徒が4名。

顔に見覚えがある。確か五年生の生徒だったな。

「どうしたの?君達。今日は…」

「学院長先生に、おやつもらいに来ました〜」

えへへ、と照れ臭そうに笑いながら答える生徒。

普通の学校なら、放課後に学院長室を訪ねておやつを強請るなんて有り得ないだろう。

しかし、最早言うまでもなく。

イーニシュフェルト魔導学院では、この程度、ごくありふれた日常である。

おやつもらいに来た、と聞くなり、シルナの両目がキラッキラに輝いた。

あー…。シルナのスイッチが入ってしまったな。

「本当?本当?やったー!いらっしゃい!良いよ良いよ、いくらでもおやつあげる!」

諸手を挙げて大喜びなんだから、なんかズレてるよなぁ。

実にシルナらしいと言えば、らしいが。

「今ね、チョコがけポテチを皆で食べようと思ってたところ。知ってる?チョコがけポテチ」

「あ、知ってます。甘じょっぱくて美味しいですよね〜」

「そうそう、そうなの!アリサちゃん分かってる!」

アリサちゃん、とは今訪ねてきた女子生徒の一人である。

チョコレートがけポテトチップスの魅力(?)を理解してもらえて、大喜びのシルナ。

「他にもあるよ!こっちは一昨日買ってきたチョコクッキーで、こっちは昨日ケーキ屋さんで買ったチョコマドレーヌで…」

出るわ出るわ、シルナのおやつボックスから、大量のチョコ菓子が。

「明日食べる予定のチョコマカロンもあるよ!さぁさぁ、どれにする?全部?全部食べるよねっ?」

押し付け。

「あっ、そうだ飲み物要るよね?マシュマロ入りホットチョコレートと、ホワイトホットチョコレート、どっちが良い?」

選択肢の幅が狭い。

どっちに転んでも、甘々のホットチョコレート…。

「私、マシュマロが良いです」

「私も!」

「私はホワイトチョコかな…」

「ホワイトホットチョコレートにマシュマロ入れてください!」

「はいはい、ただいまー」

生徒達にホットチョコレートをせがまれて、にっこにこでチョコドリンクを作りに行くシルナ。

…学院長の威厳は何処へやら。

最近、自称イケメンカリスマ教師のナジュや、学院のマスコット猫、いろりに生徒の人気を奪われて。

放課後、学院長室におやつを強請りに来る生徒の数が減ってたからな。

こうして、たまに生徒が訪ねてきてくれると、嬉しくて堪らないんだろうな。
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